イラストレーション:火取ユーゴ
第97回 2010.3月
「いくらなんでも予想外!」と惹句に書かれたが、山下プロデュースの「Improvising Bunin!」は無事に挙行された。チケット発売とほぼ同時に、たちまち全席完売。「我らのブーニンさまに、ヤマシタが何をするのだ!」というブーニン国民の怒りと興味が殺到したためと思われる。前半は夫々のソロで、まずブーニンが「喜びの島」(ドビュッシー)、「三つの小品より」(プーランク)、「コラール<主よ人の望みの喜びよ>」(バッハ)。山下が「無伴奏チェロ組曲第1番G Dur」(バッハ)、「仙波山」(山下)。休憩後、2台ピアノで「チェンバロ協奏曲第4番A Dur第1楽章」(バッハ)。チェンバロのパートをブーニン、弦楽パートを山下が弾いた。山下は通奏低音を利用して勝手なジャズ和音で伴奏する目論見だったが、練習の過程でなかなかそうはならないことを発見。なんとかスイングする伴奏は目指した。二曲目は山下の曲で「Echo of Gray」。編曲は挾間美帆。最後のカデンツァの交換ではインプロヴィゼーションのアイディアが書いてあって、ブーニンも一瞬遊んだ。この曲の後のトークで「現在生きている人の作品を弾くのは初めて」というありがたいお言葉があった。次の曲は「キアズマ」で、これは当然フリー・インプロヴィゼーション全開となる。山下が「エリーゼのために」で誘うとリストの「愛の歌」が返ってきたりというコラージュ合戦もあり、やがて、最後の場面でブーニンの「エレガント・ソフト肘打ち」が出て演奏が終わった。場内大騒ぎ。ついに「Improvising Bunin!」が実現した瞬間だった。いったん引っ込んでドビュッシーの「ピアノのために」(編曲:挾間美帆)をやる。これはブーニンの妙技に酔いしれながら、アドリブ・ソロで割り込んだりする贅沢なものだ。アンコールでドビュッシーの「夢」(編曲:挾間美帆)が終わった時に、ブーニンが立ち上がって挨拶をしている間もヤマシタは椅子から立てずに放心状態という目撃談が届いたが、その通りで、一年間の準備が全て終わった瞬間だった。夢が叶いその夢から覚める時間が必要だったのだ。ロビー打ち上げはいつもの3倍の人数が集まった。その後の内輪の打ち上げでも乾杯の連続で、ついに晴れて禁酒生活が終了した。翌日からは朝シャン(シャンペン)生活に突入。
その放蕩の日々に見学したのが、荻窪「ベルベット・サン」で行われていたOKHPジャムというスガダイロー主催のセッションだ。全部フリージャズという天晴れな集会で、スガダイロー(p)をはじめとして高橋保行(tb)、中村賢治(as)、池澤龍作(ds)、高瀬きぼり(白目芸)、紅(djembe)、ローカルリング(djembe)、あらいぐまMC(vo)、吉田隆一(bs)、平沢亨(ds)、吉田マサ(vo)、Miya(fl)、スワさん(b)、服部正嗣(ds)、山下洋輔(p)、後藤篤(tb)、東保光(b)、上田くん(p)、ウネユタカ(iPhone)、日野了介(b)という面々が次々に参加して大暴れ。これが第17回というからますます天晴れだ。おれもおびき出されて思いっきりアバレてきました。ちなみにOKHPとは「荻窪病院」のイニシアルでバンドの名前だったそうだが、当然キチ*イ病院ですよね。
筒井康隆さんが現れる原宿の店にXUXUの四人組と待ち伏せして一年越しの打ち上げを急襲開催した。2009年のニューイヤーコンサートは、山下プロデュースの第一回で、指揮者茂木大輔をフィーチャーして、筒井さん原作の交響詩「ダンシング・ヴァニティ」(挾間美帆と共作)を初演したが、そこにコロス役でXUXUが出演して全8曲を熱唱してくれた。そういえば、最後の「Good Night Sweet Heart」では、昔のLPの針が飛ぶようにある小節を繰りかえしたが、これはスガダイローがCD「JAZZ SAMURAI」でやった手法だ。文章が突然何度も繰り返されて気が変になる小説「ダンシング・ヴァニティ」にまさにシンクロする手法で、確信を持ってパクらせていただいた。今度またビール百杯おごるから許してね、ダイロー君。
打ち上げは表参道が見える大きなガラス窓を背景にXUXUがステージ通りに左からYuki、Asuka、Noriko、Yumiと居並ぶ豪華な景色だった。「ナニコレ珍百景」というテレビ番組で鳴り響く曲の正体が分かり、それがXUXUのレパートリーになることや筒井さんがついに新書版書き下ろしの「アホの壁」を脱稿しやことや原作のテレビや映画の話やNorikoさんが3歳の時に「ソバヤソバヤ」とわめいてご両親にたしなめられたなどの話をしながら美味しい料理と酒を味わっていると、アッという間に5時間以上経った。酔っぱらった山下は「おれのカラダの70%は筒井康隆で出来ている!」と訳の分からないことをわめく。最後にXUXUが新曲「ルナリジオ」を歌ってくれて他のお客さんも大拍手。曲名の意味、おれにはすぐに分かったが皆様はいかがですか?