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muji . 2009.06 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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郵便月局日 郵便局に再配達の問い合わせをすると人か機械か分からない声が「お待ちください」と言う。待っていると「ただいま外出しております」と言って切れてしまった。何だこれは! かけ直して今度はすぐに出てきた人間の女の子に、ちなみにこういう事が起きたのですがと伝える。しかし、きょとんとした受け答えで事態が分かっていない。「郵便局でそういう事が起きるのかと思いましてねえ」とねちねち言っても「はあ」などと困るだけだ。「いやいや、お知らせまででした。ところで再配達の依頼ですが」とようやく話をスタートさせた。完全に老人クレイマーと化しているな。

函月館日 函館山の展望台にあるホール・クレモナで毎年3月にソロピアノ・コンサートを始めて20年が経ったのだそうだ。HBC北海道放送主催でラジオ番組になるが、数年間、2時間ぶち抜きの生中継で放送してもらったこともある。20年間も続けたというので、何と演奏終了後ステージの上で表彰式をしてもらった。HBC函館放送局長の鴨井氏、函館山ロープウェイ社長の石井氏からそれぞれ感謝状を、ロープウェイ会長の西野氏からはご自身が撮られた写真パネルをいただく。ジャズの現場でこんなことが起きるのは初めてで、返礼のスピーチで思わず「紫綬褒章をもらった時よりも嬉しい実感があります」と述べた。これは本当で、2003年の皇居での授与式の当日はおれは先約のあったニューヨークのジャズクラブで仕事をしていた。
 打ち上げ場所は、古い日本家屋の畳の間にテーブルと椅子をおいてスペイン料理を出すという幕末の雰囲気だった。主催者、スポンサーの方々、それに国立音大の少し後輩で北海道教育大学の理事になった佐々木茂氏や、ジャズマンを描いて当のジャズマンに大受けの漫画家のマイスケも加わっての大宴会。函館は横浜と同時に開港した先進文化受け入れ場所だ。佐々木氏とペリー艦隊の軍楽隊が何を演奏したかなど話す。音楽学者の笠原潔氏の研究などでほとんど細かく分かっているそうだ。その音楽の再現なども計画されているという。

声掛け月人間日 そうこうしているうちにHBCの安井氏が実は筋金入りの声掛け人間である事が判明した。アート・ブレイキーの公演でスロー・バラードでのホーン奏者のアドリブがあまりに素晴らしかったので、演奏途中だったが思わず「イエーイ」と大声を出すと、ブレイキーが「ドスーン」とバスドラを踏んで答えてくれた。それが録音に残り、病みつきになったらしい。演奏直後に真っ先に声を出すのもほとんど自分だと自慢をされるが、これ、諸刃の剣ですからご注意下さいね。クラシック・オーケストラの演奏でもやっているらしいが、名演奏の後にしばしの至高の静寂がある貴重な瞬間を外国のオケでは経験することできるが、日本では皆無で残念だとN響の茂木大輔氏も言っている。意味お分かりですよね。

再月名古屋日 前回、名古屋の食文化について書いたらとめどがなくなったが、またまた今回も名古屋にいる。昼食時に蕎麦屋を見つけて「おお、名古屋にも蕎麦屋がある。これは大発見だ」と中に入った。しかし、やはりただではすまない。「ざるそばと味噌カツのセット」というものが当然のようにフィーチャーされている。「折角名古屋にいるんだからなー」とつぶやいてそれを注文すると、それを聞きとがめたのか、店員のおばちゃんから「蕎麦のかわりにキシメンのざるもある」と勧められた。勢いに押されて「じゃあキシメン」と言ったが、これは大失敗だった。あんなものが蕎麦の代わりになるわけがない。そもそもウドン粉のキシメンは、熱々の汁の中で大量のかつお節と共にのたうち回ってこそ存在理由がある。ざるそばの代わりが出来ると思ったら大間違いだ。「マネジャーと一緒によく考えて出直してこい」などと怒りながら味噌カツに向かうと、これは伝統の自信を反映してか実にそっけなかった。ご飯の上に千切りキャベツが敷いてあり、そこに味噌だれがかかった小さめのトンカツ二個がのっている。片隅にマヨネーズが控えている。ま、蕎麦屋のカレー同様、蕎麦屋の味噌カツというわけだろうが、これは悪くなかった。
 メニューには他にチーズカレーうどん、牛みそうどんなどというものが当然のように載っている。やはり素晴らしいニャゴヤ文化全開蕎麦屋だ。外に出て歩いていると「名古屋めし!」とわざわざ「!」をつけて威張っている食べ物屋がある。一体何が出るのだろう。ずっと以前に「新幹線のホームに降りると回り中でニャアニャア言っている」とタモリにからかわれたのを機に、それを利用して名古屋文化はのし上がったという説もある。おそるべしニャゴタリアン。



「CDジャーナル」2009年6月号掲載
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