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. | 2008.12 | . | ||
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イラストレーション:火取ユーゴ |
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電車月災難日 立川始発の南武線に座って川崎まで行きタクシーで羽田へ向うのを最近のルートにしている。乗車時間1時間の間にメールはできるし(PCに発信機。携帯ではない)、五線紙ソフトやワープロで仕事も出来る。動く書斎だ。ところがその日は隣に座った若い男が急に眠り出して寄りかかってきた。長めの髪が邪魔でしょうがない。押し返すと一度は、はっとして目が覚めるがすぐにまた寄りかかる。戦いながら仕事を続けていると途中の駅で目が覚めて降りていった。やれやれ。ところが次に座った若い男がまたまた眠り始めた。同じように寄りかかってくる。こいつも長めの髪でしかも前の奴より汗臭い。戦いを繰り返す。前の席の女子高生がこっちを見ているので少しは笑うのかと思ったら、ビー玉のような目でじっと見るだけだ。何だお前らは! 睡眠星人の南武線攻略部隊か。居眠り用ソファ人間にされたのかおれは。 せん月くら日 「せんくら」(仙台クラシックフェスティバル)でピアノ協奏曲第3番「エクスプローラー」を全楽章やる。山下一史指揮・仙台フィルハーモニー管弦楽団。ゲネプロなしでいきなり昼本番。もっとも事前にオーケストレーションの挾間美帆共々リハーサルをしに来ている。マエストロ山下とは筒井康隆作「フリン伝収録」を一緒にやっているので何の心配もない。最終楽章でビッグバンに遭遇して砕け散り、自作の曲の洪水の中で再生するというエンディングはやるたびに発見がある。来年1月には兵庫県立芸術文化センターで佐渡裕指揮・兵庫芸術文化センター管弦楽団で3日間再演、そのあと明石市でも一公演あるという最大の幸運に恵まれた曲になった。 交月流日 本番後楽屋に漆原啓子(vn)さんご来訪。「オケの音をどうやって書いたの?」とすぐに聞かれた。1985年に結成したハレー・ストリング・カルテットのリーダーとしておれの「ピアノ五重奏曲第1番」と2番を共演していただいた恩人だ。ちなみにその時のメンバーは、松原勝也(vn)、豊嶋泰嗣(va)、山本祐ノ介(vc)。すげえメンバーでしょ。20年前ですよ。今も実現しているクラシック・プレイヤーとの共演プロジェクトの第一歩だった。その時におれが書いた音をご存知の上で「よく勉強したのね」という意味のご質問なのだ。ちょうど現れてくれたプロデューサーの平井洋氏共々、オーケストレーションは山下ではなく、注目の新星・挾間美帆がやったことを口々にご説明する。 四月季日 ヴィヴァルディの「四季」を全曲生で聴いた人は多いのかな。その晩に漆原さんがソリスト兼指揮の演奏が予定されていた。これはチャンスと鑑賞させていただく。いやすごいものでした。4曲それぞれ三楽章ある12のパートで弦楽器の全ての可能性が表現されている。バルトーク・ピジカットも出てきた。この頃からあったのか。仙台フィルの選抜メンバーを率いる漆原さん、貫録のヴィルトゥオーサでした。 交月流日その2 山下マエストロと茂木大輔(ob, cond)と会食。N響首席奏者の茂木大輔は近年では「のだめオーケストラ」の最初の公演を実現させるなど指揮でも大活躍。「せんくら」ではブラームスの「1番」を解説付きで振る。それでお二人の会話は、あっという間に指揮者同士の究極奥義探求伝授棒振りギルド秘密結社決起集会の様相を呈した。話題は展開部に突入してクラシック界の内輪話全開。これは録音しておけば単行本が二冊出せる、と思わずわめいたが、出来た本は伏せ字率67.5%だったりして。翌日ソロをフタコマやって帰宅。 靴月擦日 久しぶりの休日は夫婦そろって歯医者さんへ。帰途思いついて昭和記念公園に行く。コスモス八百万本が見られるという垂れ幕に惹かれた。以前の家は玉川上水口がすぐそばで、アイディアに困ると入り込んでよく散歩をした。今日は車を西立川口の駐車場に入れる。週末だと何時間待ちの混雑になる。園内に入って係の人に「コスモスが見たい」と言うと「あっちの方に30分歩いてください」と言われる。2キロ程歩かないと見られないと判明。いやあ大変でした。何とかたどり着いて、数カ所に分かれて見渡す限り群れているコスモスを見た時には疲労と靴擦れでへろへろ。企んでいた作曲アイディア拾得も吹き飛んだ。近くの砂川口から出てタクシーを呼んで西立川口の駐車場に戻るというテイタラク。昭和記念公園は広いですよ、皆さん。 猫月集会日 日高敏隆さんの文庫本「ネコはどうしてわがままか」の解説をやらせていただいたが、これが我が家の猫のことばかり喋りまくり、揚げ句の果てに自分のCD「トリプル・キャッツ」も宣伝してしまうという「暴走解説」になった。ところが、それに目をつけて猫本を単行本で出さないかと言う編集者が現れた。そうなればまずは猫親の照明家の関根一郎・有紀子夫妻に許可をもらわねばならない。というわけで第一回ブレーン・ストーミングを関根家で開催。猫のことになるとどうしてこう素早く行動できるのだろう。 「CDジャーナル」2008年12月号掲載 |
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