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muji . 2008.04 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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馬鹿月名前日  ロシア人の耳鼻咽喉科医師ノゾキミール・ノドチェンコ、韓国人読書家チョー・ヨンデル、おでん好きロシア人シルスキー・タコチクワなどを聞いて爆笑する。下着が合っていないクロアチア人女性クイコムワ・ブラヒモビッチもいい。

激キレ月老人日  かと思うと激怒日もある。ファックスのボタンを猫が踏んだのか、インクリボンを換えろという表示が出た。見るとまだ余裕がある。セットし直そうとしたが、ぐにゃぐにゃのカーボン紙が二本の筒にからまる。手が滑ってばらばらになって床に転がっる。かき集めて機械の中に入れるが上下方向が分からずにおさまらない。いじり回すとさらにぐじゃぐじゃになったのでついに怒り心頭、グギギギギギ!と叫んでインクリボンをゴミ箱に叩き込んだ。とはいえ受信中の出来事で放置はできない。そうだ感熱紙仕様のものがある筈だと気づいてすぐに近所の電気屋に電話をした。「そういうファックスを買いたい」「ここには置いてありません」「インクリボンのものは複雑で困るんだよな」「そんなことはないです。簡単ですよ」売りつけるつもりらしい。「じゃあ、あの緑色のレバーは上下どっちに置くの」「えーとそれはですね、、」答えられないくせしやがって何を言うかこの若造め、とまたまた怒り心頭で電話を叩き切り、駅前の大手チェーンに問い合わせると、そこにはあるというのですぐに行って買った。すると店員が電話が便利で安くなる契約変更が出来ると言い出した。それをやるまで品物を渡そうとしないので、なすがままにしていると、勝手に電話会社に電話して「先方からかかってきますので出てください」と言う。すぐにではなくそれまでしばらく時間がかかるというので「じゃあちょっと他の用をしてくるから」と駅ビルの書店に行って筒井康隆「ダンシング・ヴァニティ」を買った。一冊持っているが書き込み用の二冊目だ。この作品は「繰り返し」を音楽のように使うので、読んでいるうちに楽譜を見ているようで完全に気が変になる。月刊誌もチェックし「オール読物」に吉行和子と向田和子が百歳の母を語る対談が載っていたのでそれも買った。店に戻るとさっきの店員がいない。別の奴に訳を話して、品物を持って帰りたいが電話の契約がなんたらという話をすると「ああ、○○さんですね。今ちょっといなくなっちゃって」そんなに長時間客がどっかに行ってしまうとは思っていなかったらしい。別店員があらためて引き継いだが、結局電話会社との新契約は出来ない事が判明した。何だこれは! とまたまた怒り心頭で家に帰り「オール読物」を見たら、別ページで東海林さだおと藤原智美が対談をしていて、些細なことにキレて店員を殴ったりする暴走老人が増えていると話していた。最近流行っているらしい。なるほど、つまりはおれも流行に敏感なのだと納得した。


国立月音大日  新宿ピットインの昼夜が国立音大に占拠された。昼は演奏応用コース(通称ジャズコース)の第一回卒業生の発表会だ。卒業生在校生入り乱れて10グループ、のべ30人以上が出演。試験ではないので皆好き勝手にのびのびやっている。教えていないこともどんどんやってしまう。そういうことの方が面白いというのは学校教育で起きる普遍的現象か。大学当局とは関係なくジャズコースの洒落として「山下洋輔賞」が設立され最後に発表と授賞式がとり行われた。赤塚謙一(tp)が第一回目の受賞者となった。

 夜の部は卒業生が集結。佐山雅弘(p)はソロと軽妙な語りで国音出身のピアニストの物マネを全部やって見せた。本田雅人(as)&池田篤(as)セッションは在学中以来の夢の顔合わせだ。一年前からリクエストをしてついに実現した。リズムセクションが椎名豊(p)、金子健(b)、高橋徹(ds)で、まさにワールドクラスのジャズ演奏をたっぷり四十分間見せつけた。原田依幸(p)&梅津和時(bcl, as)デュオはフリー派の紹介。一世を風靡した伝説のフリージャズビッグバンド「生活向上委員会」のリーダー二人が火の出るようなフリーセッションをやるさ中、最後に何と管楽器十五人が乱入して大クライマックスが出現した。これは誰も知らなかったことで、原田依幸が密かに招集しておいた手勢の軍団だった。松風鉱一(as, fl)のトリオは金子健と山下が参加。全曲松風オリジナルの渋い松風音楽が響いた。最後は梅津和時クインテットで、古澤良治郎(ds)と山下が久々に顔を合わせ、最近めきめきと売り出している二人の若手奏者、佐藤芳明(acc)と喜多直毅(vn)がフィーチャーされた。いざとなれば梅津和時が仕切ってくれるセットなので、全員安心して大暴れをする。こうして2008年「くにおんジャズVol.1」は、無事に終了した。NHK-FMが収録していて3月20日「山下洋輔と仲間たち」というタイトルでオンエアされる予定だ。



「CDジャーナル」2008年4月号掲載
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