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muji . 2008.03 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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猫月神社日  昨年のニューヨーク・トリオのツアーの時に「週刊新潮」の掲示板に「猫神社についてご存知のことがあれば教えてください」と載せたのだが、その返事が転送されて来ていた。それによれば、広島県尾道市に2個所、徳島県阿南市に1個所、それから長野県上田市には鬼瓦ならぬ猫瓦が特色の地方があるという。ここに以前に書いた立川と鹿児島を加えて5つ見つかったわけだ。井上さん、近藤さん、市原さん、ありがとうございました。読者の皆さまもご存知でしたら是非お知らせください。

三冠月猫日  その猫が次のアルバムのタイトルになる。ニューヨーク・トリオの新アルバムに「トリプル・キャッツ」という曲が収録されて、これがタイトル・チューンになった。この曲もそうだがCD収録曲は、1月12日に発表した「ピアノ・コンチェルト第3番<エクスプローラー>」に出てくるテーマと何曲かが呼応している。構想を始める中、11月のニューヨーク・トリオのツアーとレコーディング用の曲も用意しなければならず、入り乱れて姿を現すことになったのだ。
 例えば、CD収録曲の1曲目の「ダイヴァース・コスモス」は、第3楽章全体のスケッチだ。E-Hの音程のテーマを最初においてフリー演奏をするが、その楽章のイメージは4発の爆発するブースターで宇宙に吹き飛ばされ、様々な生物に出会いながら時間を遡ってビッグバンに遭遇し、粉々の無になった瞬間、過去の自分の全作品が押し寄せてきて、その渾沌の中ではたしてどういう結末を迎えるか、というもの。最初に出会うのが木管楽器による「猫生物」で、これに「トリプル・キャッツ」のテーマが使われている。新聞評で絶賛されたオーケストレーションの挾間美帆がここでも凄い腕前を発揮していて、猫は飛び回るわミャオーと鳴くわ鳥は出てくるわピアノは喜んで暴れるわの場面が出現した。
 ちなみにその後、弦によるゴニョゴニョの地底生物、金管による華やかなバリバリ生物、打楽器による疾走生物などに出会い、ビッグバンに向かう。この楽章の最初から、関係なく日本伝統の柝の音が鳴っていて、それが徐々に間隔を狭めて終末への予感となっている。などなど、解説を始めると止まらないが、この「トリプル・キャッツ」は、最初はニューヨーク・トリオで演奏するテーマとして出来た。
 一方、コンチェルト用に作ったテーマは先の「ダイヴァース・コスモス」の他に「ドライヴィング・フーガ」があり、第1楽章のメインテーマは「トゥエンティス・テーマ」に姿を変えた。当日第1部で演奏した「幻燈辻馬車」も収録したので、コンサート関係で計5曲だ。あとの2曲は4月にやる予定のガーシュインの「コンチェルト・イン・F」の冒頭テーマを使った「"イン・F" フラグメンツ」と、メル友の言葉で突発的に出来たバラード「メモリー・イズ・ア・ファニー・シング」となっている。

The月Cats日 「トリプル・キャッツ」は出来た時は「ダブル・キャッツ」だった。2匹の猫を両腕に抱えて喜ぶ状態をそう呼んでいて、そのイメージで曲ができた。ニューヨーク・トリオでリハーサルを始める時に、そういえばおれたちは3匹だったなと気がついて改題した。そもそも「キャッツ」にはジャズ・ミュージシャンという意味がある。なぜそう言われるかについて、これは偶然に資料を見つけることが出来た。
 ニューヨーク・トリオの東京公演を見に来てくれた高岡早紀の家に遊びに行って、父親のLPのコレクションから「The Cats」というアルバムを見つけたのだ。親友だった父親の故高岡寛治は横浜の老舗ジャズクラブ「エアジン」の創始者だ。そのライナーノーツにアイラ・ギトラーが書いていることを要約してみる。
 ジャズマン用語では「キャット」は一般男性全てを指すもので、特にジャズミュージシャンに特定されていない。しかし、集合名詞の「ザ・キャッツ」が使われる時には、その意味になる。この言葉の発生は1900年代の初め頃のニュー・オリンズで、紅灯街のお姉さまたちを「キャッツ」と呼んだことに由来する。それが、その館のバーで客相手の音楽をやっていたジャズ・ミュージシャンたちを表わす言葉へと転化した。その後ジャズはそういう場所を出て進化し世界に広がったが、「キャッツ」という言葉は今も残っている。というわけで、ジャズ出生の秘密も含む言葉だと判明したのだった。
 ところで、先に触れた「エクスプローラー」の新聞評では、ベートーベンからの引用にも触れていた。補足すると、第2楽章に2個所あって、一つは「第九」の第2楽章のティンパニが活躍するところ。もう一つは「英雄」の第1楽章の途中に出てくるギル・エバンスのような未来和音とB7コードのキザミの部分だ。
 などなど、1月12日の興奮がさめぬままのウワゴト・エッセイで失礼しました。CDもコンチェルトも聴きたくなって下されば幸いです。CDは3月26日発売。「コンチェルト第3番」は来年1月に西宮の兵庫県立芸術文化センターで再演決定であります。



「CDジャーナル」2008年3月号掲載
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