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muji . 2007.11 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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  モノ月レール日 モノレールの四人掛けの座席の通路側に座る。窓際の席に向かい合っていた二人の娘が同時に降りるので、一度席を立って通路に出た。すると入れ違いに、別の二人の娘がおれの席と窓側の席に並んで座ってしまった。向いの窓際の席は空いているがそこに入り込むのは気がひける。二人はおれは駅で降りたと思い込んでいて、すぐそばに立っているのに全く気がつかない。居づらくなって大荷物と一緒にそろそろとその場を離れたが、なんか理不尽だよな。モノレールその二は、羽田第一ターミナルで降りて改札口を出てから、ジャケットを網棚に忘れたことに気づいた。慌てて駅員にどうしたらよいか聞いている内に、その電車が第二ターミナルから折り返して戻ってくることに気づいた。ホームに降りて待ちかまえ、入ってきた電車の覚えていた号車のドアから走り込んで網棚のジャケットを回収してホームに出た。スパイ映画顔負けのドンピシャの快挙だって威張らないで、最初からドジをやらなければいいんだよな。

若月松日 その羽田から北九州空港に飛び、北九州市で「若松鉄人ジャズ」に出演。洗足学園音楽大学ジャズコースの教え子の福澤久(ds)が若松に縁があり、斎藤草平(b)と共に呼んでくれている。「教え子に 仕事をもらう 年になり」と一句詠みながら、ゲストの竹内直(ts)、地元から参加の岡本管(ts)と共にワンステージやる。最初のセットは五十嵐はるみグループで、田中裕士(p)、佐瀬正(b)、平山恵勇(ds)が出演。ドラムの平山氏はサンペイさんと言ってもらったほうが通りが良い。若松は戦前石炭の積み出し港としてにぎわった。上海に石炭を運び当時全盛だった「上海バンスキング」のジャズの世界に触れ、それを若松に持ち帰って戦前にジャズバンドがあった特異な街だった。そのことを背景に「エルエバンス」のマスターの和田寛市さんが北九州市にジャズでの街おこしを提案して成功しているのだ。このあたり、筑豊とジャズについて大々的現地座談会が行われて「ジャズ批評」誌に掲載されるので是非そちらでもご覧ください。

 一週間後今度は行橋市へ。ここの京都(みやこと読む)高校同窓会のアトラクションにニュー・カルテットで呼んでいただいた。小学生の時、筑豊の田川市に住んでいた頃は行橋は電車で出かけていく海水浴場だったが、他にご縁はなく、しかし行ってみると超大歓迎にびっくり。卒業生の一人岡本仁彦氏が70年代に「横浜エアジン」で聴いてくれていて、我々の招聘について大熱弁を振るってくれたのが原因らしい。加えて、同じ卒業生の大原紀彦医師の母上がこちらの親戚筋だった。祖母の妹のヒロ子さんは初代ミス日本だがその姉に生子さんがいて外交官阿部守太郎に嫁いだ。英国に滞在もしている。大原さんの母上はその孫にあたり、父上の大原医師と結婚された。色々重なってすっかり身内感覚になり盛大な前夜祭に酔い本番の大歓迎に酔う。楽屋入りの時に総勢44名のスタッフの方々が揃いの似顔絵入りTシャツで拍手して迎えてくれるのは初めての経験だ。本番も大盛況の興奮さめやらぬまま翌日北九州空港へ。ここには空港内に焼酎のスタンドバーがあって伊佐美も魔王も飲み放題だ。仕事帰りに酒屋できゅっと一杯引っかける昔からの「角打」(かくうち)という習慣をそのまま空港に残しているという大変貴重かつ危険な場所になっている。前回若松の帰りもふらふらと近寄ってしまったが、今日は時間が早くて開いていない。とはいえ隣のラーメン屋さんに7人のお見送りの方々と入って焼酎をいただき、色紙にサインまでするという北九州事情は変わらない。六月薩摩川内以来、7月鹿児島、8月若松、9月行橋と連続の九州パンチは快い。このあと9月末に、福山から続いて福岡と宮崎で大阪シンフォニカー交響楽団・指揮大山平一郎で「ラプソディ・イン・ブルー」の三連チャンがあるが、この時はさすがに禁酒だろうなあ。

佐渡月鼓童日 佐渡で鼓童が主催する「アース・セレブレーション」最終日のゲスト。鼓童と久しぶりで「ボレロ」を共演。出入りの最中に楽屋で携帯電話でヤマノ・ビッグバンド・コンテストに出ている国立音大ニュータイド・ジャズオーケストラの情報を収集する。山本修平(ts)リーダーで優勝し優秀ソリスト賞をピアノと編曲の挾間美帆が取ったとの知らせに喜ぶ。フィナーレでは、ザキール・フセイン(タブラ)、ジョバンニ・イダルゴ(perc)、タマンゴ(タップダンス)、松田美緒(vo)と入り乱れて大演奏。フルート奏者でもあるNY在住の演出の渡辺薫氏が、このコンサートを亡きマックス・ローチに捧げるとアナウンス。ローチは鼓童が好きで鼓童の功労者河内敏夫氏の追悼公演に参加している。その時はオマケでおれとも一瞬共演の場面があった。合掌。





「CDジャーナル」2007.11月号掲載
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