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muji . 2007.10 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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  台月風日 高松に行く日に台風接近。空路の予定を早朝の新幹線に変更して岡山へ。途中該当便の欠航を知り作戦が当たってほっとするが、こちらも瀬戸大橋を電車が通れないと言う事態。車は通れるがどうするか。高松と相談するとフェリーがまだ動いているという。宇野港へ向う最後の電車に乗って最後のフェリーに乗る。船は思ったより揺れなかったが時々飛行機が下手な着陸をした時のようなドカンという衝撃が来る。これは怖かった。瀬戸フィルハーモニー交響楽団・指揮山田和樹で無事にリハ終了。山田氏、オケの副理事長の鎌田郁雄氏、古参楽団員で世話役の宮崎節二氏と会食。まだ28才の山田氏は芸大時代から友達とオケを作って活動している。「のだめ」のチアキ先輩のモデルであることを否定されないのが素晴らしい。その夜のうちに台風は高松上空を過ぎ翌日の昼本番は「交響曲第九番新世界より」、「パリのアメリカ人」、「ラプソディ・イン・ブルー」。大盛況のうちに終わり、そのまま駅へ直行し、鉄路で鹿児島へ向かう。これは結構な大旅行だったが、とにかくその日のうちに薩摩に転がり込んだ。

薩月摩日 翌日、1986年のドバラダ門騒動(祖父の作った旧監獄の取り壊しに反対して監獄の門前でセッションをやった)の時にドラムを叩いてくれた森田孝一郎君と一緒に、同じく密談の舞台となったジャズ喫茶「パノ二カ」のオーナー中山信一郎氏を病院に見舞い、黒豚料理で会食し、ライブハウス「コロネット」で松本圭使氏のソロピアノを聴き、いつのまにか森田(ds)、ジェームズ・ナオヒロ(b)、尾崎佳奈子(as)でセッションをやるというサツマ現象に浸った。翌日は鹿児島市民文化ホールで、XUXU、川本悠自(b)、絵里(vib)、山崎史子(vib)が一同に会する豪華コンサートの助っ人だ。XUXU語であらゆるジャンルのア・カペラをやるXUXUは並び順に左から、リーダーのユキ、アスカ、ノリコ、ユミと名前がすらすら言える程長いつき合いになった。

深夜月密会日 サツマ現象はその晩も続き、歴史学者原口泉氏、建築学者揚村固、示現流高弟有村博康、南日本新聞馬場国嘉というドバラダ騒動の立役者の皆さんと深夜に集うことになった。二十年前のドバラダ騒動がまた起きそうな予感で胸騒ぎを起こす。来年のNHKの大河ドラマが薩摩の「篤姫」に決まったために調査協力で原口先生はいつものように引っ張りだこのようだ。

猫月神社日 またまた猫神社出現。なんと先祖の地薩摩には何百年前からあった! その由緒は古く秀吉の朝鮮遠征の時で、島津義弘が猫を七匹連れて行ってその目の変化で見知らぬ国の時刻を測ったという。戦乱の中五匹は戦死し、二匹が生還した。その武勲をたたえて猫神社を作って祀ったというのだ。有村さんの勤める仙厳園の中にある。大勢の猫がオーケストラをやっている絵のTシャツをもらって喜ぶ。しかし、いくら外国でも時刻は外を見れば分かると思うので、この話、実は島津義弘が猫を愛するあまり離れたくなくて連れて行ったのではないかと解釈したい。

豚月丸焼日 ご近所居酒屋「くぼがた」が一周年記念の野外パーティをやるというので在宅仕事を怠けて午後から出かけてみると、何と大きな豚が一匹串に刺されて回っている。何日も前に沖縄に注文すると焼けばよいものが届くのだそうだ。参加人数60人で6時間かかっても食べ切れなかったらしい。太古の人々の生活が偲ばれる。昼間から豚と焼酎とピールでもう完全にその日は存在しなくなった。太古の生活には原稿も作曲も練習もメールに返事もゴミの分別出しも宅急便も新聞の集金も猫のエサもウンチ掃除も何もなかったんだなあ。昔はよかったなあ。

長野月快挙日 長野の盟友で同じ横浜ベイスターズファンの長谷川浩一郎氏の誘いで、横浜ー巨人戦を見に行く。着いてすぐに「美鈴楽器」に案内してもらってMIDIインターフェイスを探す。店員氏が洗足学園大学でおれの講義を聞いたことがあるという。世の中狭い。そのせいか無かった筈の品物が到着して手に入れることができた。これは縁起が良い。「太平庵」で美味しいお蕎麦を頂き、いったんホテルに戻って横浜のキャップと1998年優勝の時の記念Tシャツに着替える。手にはタオルと石井琢朗二千試合出場記念の黒字に金文字のTシャツも持つ。同行者は巨人命の小井土文仁氏と東京からの成沢大輔氏。大渋滞の中タクシーで着いたスタジアムは大きな葉っぱが広がったような外見だ。冬のオリンピックの開会式に使った場所だという。試合は工藤が1点に抑え5対1で勝つという奇跡の展開。周りは巨人ファンばかりで、最初は皆余裕の軽口も出ていたが、やがて目に見えて機嫌が悪くなり無口になる。構わずTシャツとタオルを振り回し大声で横浜を声援しまくる。いざとなったら巨漢の長谷川氏の背中に隠れればいい。というわけで見事首位争いに踏みとどまった。この号が出る頃の事は別にして、今年一番の至福の夜でありました。これじゃ、仕事がはかどらないわけだよね、待っていて下さる関係各位の皆様すみません。






「CDジャーナル」2007.10月号掲載
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