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muji . 2007.01 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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  阿佐月谷日 阿佐谷JAZZ STREETジャズストリートに出演。神明宮の神楽殿で薪を焚いて薪能ならぬ薪ジャズをやる。これで9度目。青少年時代を過ごし今も実家のある阿佐谷が、毎年二日間ジャズ漬けになるとは夢にも思わなかった。当時は土手の上を電車が走り木造の駅舎の駅前広場は赤土だった。そこに物売りが出てガマの油や超速計算の出来るという算数の本などを売った。今は広場には噴水がありジャズが鳴り響く。今年の出演者数はとうとう500人以上になった。えらいことです。デュオの相棒の寺屋ナオ(g)、予定通りの通りがかり飛び入り人間米田祐也(as)と共に2セット。終演後一番街の焼き鳥屋「鳥正」になだれ込んで恒例の打ち上げ。鳥正一家ご自慢の、桃子、奈々子、梨々子の美人三姉妹も現れる。そこでこれも恒例(といっても二度目)の米田アルト独奏会をリクエスト。生のアカペラ・ジャズバラードをバックに超美味のでかいレバーをタレ焼きで食い生ビールを飲むという至福の瞬間が、阿佐谷JAZZ STREETに出演する個人的条件になったようだ。

独月逸日 自著本の日本での出版打ち合わせの為に来日中のホルスト・ウエーバーを、自宅のある立川に呼んで好物の寿司をご馳走することにした。夕方駅で出迎えてまず最初にドイツのランツフットン市で修業したご主人松沢達市氏のやるハムソーセージ製造販売のお店「ゼーホフ工房」に連れて行った。一画にある小さなテーブルで手作りのビヤシンケンでドイツビールを飲む。ホルストご機嫌。ハムソーセージはヨーロッパの方が塩気が強い(そっちの方が好み)というおれの疑問はその通りと分かった。フランケンワインがおいてあるのでそれを買い、家にあるシャンペン共々土産にやろうとしたら嫌だと言う。「ワインもシャンペンもドイツにいくらでもある。重いものをなぜ持たせる。お前は論理的な奴だと思っていたが今回は全然ダメ」。拒否されてしまった。確かに論理的に正しいドイツ野郎だ。寿司屋はおれの生もの嫌いを知らなかった人が断る間もなく連れていってくれた店。普通の家にどんどん入っていくと中が寿司屋という仰天光景を覚えていて、いつか寿司好きをおどかしてやろうと思っていたのだ。その「やま田」に行き、ヌーベル風寿司コースをこちらはなるべく生もの抜きにしてもらって(大変な矛盾だが)ご相伴する。紹介者の保険外交員水車美江女史も合流してひと騒ぎ。水車女史の車で立川まで送ってもらいホルストを電車に乗せる。ホルストはそのまま新宿の「DUG」に戻りマスターの中平さんと共に六本木「アルフィー」に行ってグレース・マヤのステージを見るという予定だという。相変わらずタフなドイツおじいちゃんだ。

追月突日 ピットイン帰りの深夜の中央道、前のトラックのブレーキランプに応じて運転の家内が減速すると、後ろからドシン! 妙に冷静なまま路肩に寄せて110番し、外に出ると、後ろの車の女性が走ってきて「大丈夫ですか!」。すぐに救急隊が来ててきぱきと処理。トランクが開きっぱなしで閉まらず隊員がガムテープで押えてくれる。周辺はぐちゃぐちゃでもそれで衝撃緩和して中は大丈夫という車の構造のせいか、ムチウチも何ともない。後日、保険は100対0で相手の負担となり、すべて順調に処理される。こういう時にすぐ救急車を呼び、医者と結託して重症、危篤などと嘘をつきまくって大金をだまし取る悪い人々もいると後に聞かされたが、そんな面倒くさいこと誰がするか。

嗅月覚日 事故処理の一環で一応総合病院で検査を受けるので、紹介状を書いてもらいに菅家医院に行く。菅家先生の奥様はずっと国立音大の声楽の教授だったので何かあると駆け込むことにしている。いただいた紹介状は後日すごい威力を発揮して、見せるやいなや院長が飛んできて担架と車椅子と点滴と若い看護婦10名を手配してくれた、ってこれは嘘だけど、助かりました。この機会に、インフルエンザのワクチン注射をしてもらい、ついでに最近の健康状態を色々話した。その一つは以前にひいた風邪以来の不完全な嗅覚について。微妙な芳香がとらえられない。このままでは目隠しでワインの赤と白を飲んで区別がつかなくなるかもしれない。色々と対処法を教えていただいたが、最後に、年を取るとそういうこともある、というスゲないご意見にガクッ。

ゴ月ミ日 個人的ラマダン期間(断酒)に入って、普段やらないことを色々やるようになった。書斎がゴミ屋敷になったせいもあって大量の物品投棄を断行したが、その延長で日常のゴミ処理に関心が向く。いやあこれがとんでもない労力を市民に強いるものだと発見した。連日、市のゴミ対策課に電話をかけては聞きまくった。特に「紙」類の分別は理解できないものがある。皆ちゃんとやっているのかなあ。横浜ベイスターズ好きで知り合った漫画家のやくみつる氏のことを思い出した。すごく前から雑誌を出すときにはホチキスを全部はずして別にすると言っていた。えらいなあ。
 というわけで本年最後の文字化け日記、極私的地域限定編で失礼しました。また来年もよろしくお願いします。


「CDジャーナル」2007.01月号掲載
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