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muji . 2006.01 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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  沖月縄日。NYトリオのツアーが沖縄から始まる。前夜到着して、主催者の徳田女史ご推薦のイタリア料理店で会食。ワインはフェローンが選ぶ。以前、ある打ち上げで「ここにあるワインを何でもご馳走します」と言われ、ワインセラーの奥に隠してあった最高級品を選んでご亭主を慌てさせた実績がある。あまりに料理が美味しいので食後酒時に皆で皿を叩いて「We Want Chef!」の大合唱。シェフの佐藤さん登場して記念撮影と、まずは美味しい出だしだ。翌日の昼は、持参しているハンドロールピアノというダシ巻きの玩具のような鍵盤楽器をラップトップにつないで、リハ時間まで譜面書き。初日は、旧曲と新曲まざるプログラムになる。「パイカジ組曲」は沖縄では必ずやる。パイカジとは「南風」の意味。途中のベースラインは、昔、照屋林助さんに教わったメロディだ。新曲は仮題「Biginning」と「New Orleans」をやることができた。

岐月阜日。岐阜はまず岐阜放送主催でコンサート。翌日、織部賞の授賞式に出席。織部賞は織部焼で知られる岐阜の武人で茶人の古田織部にちなむもの。「450年前のアバンギャルド」と言われるぐにゃぐにゃ表現などを色々残した。72歳で切腹というどうもすごい人だ。審査員が磯崎新、石井幹子、内田繁、坂根巌夫、アンドレア・ブランヅィ、熊倉功夫、日比野克彦、松岡正剛というウルサイ人たちなのも光栄だ。隔年で行われ今回は第五回目。グランプリが漫画家=水木しげる、織部賞は、グラフィックデザイナー=杉浦康平、プロダクトデザイナー=深澤直人、メディア・アーティスト=ジェフリー・ショー、ジャズピアニスト=山下洋輔、特別賞は、陶芸家=故加藤卓男。音楽家ではこれまで、矢野顕子、土取利行、桃山晴衣が受賞している。この授賞式の特色は、受賞者が受賞理由のお仕事をその場で発表するというもの。つまり全員実演ありだ。これは松岡正剛事務所の仕切り。こちらは岐阜で初めてオーケストラと共演した縁で「ラプソディ・イン・ブルー」をソロピアノバージョンで、さらに松岡さんと対談後アンコールで「ボレロ」をやった。他の皆さんの作品とレクチャーも、水木先生がその場で大きな紙にゲゲゲの鬼太郎オールスターズを描くなど、すごいものばかり。もらったトロフィーは今回は日比野克彦さん作の「豆腐松茸卵桜桃」というもので、その通り土台の豆腐の上に松茸と卵と桜桃が順に並ぶというぶっ飛んだものだった。
 授賞式の後、フェローン、セシルと一緒に柳ヶ瀬へ行く。旧友の牧田女史紹介のバー「サフラン」は指揮者の故渡邉暁雄氏そっくりのマスターがいて、アルコール度数96度のウオッカがある。口につけたとたんに唇を焼くようにシュッと蒸発する。そこで食事をしながら、歴代アメリカ大統領のジャズ好き度などを話す。やはりジミー・カーターだろうという。彼の就任式でセシル・テイラーが弾いている。またディジー・ガレスピーと話した時には、バップのフレーズのスキャッツで問いかけられて即座に正しいスキャッツで答えたという。それは「ソルト・ピーナッツ」じゃないのかというと、そうではなくこういうものだと言ってフェローンが歌い音符にしてくれたが、その紙を忘れた。スキャッツの歌詞は、BUMとかSHUBUMとか A KLOOKとか語尾に子音がはっきりついているものだった。忘れるといえば、このときBGMで流れていた曲の題名を、誰も思い出せない現象が起きて、ああでもないこうでもないの末、とうとう電話ということになった。こういうことには詳しい歌手の上山高史氏に電話をしたが留守で判明しない。何か「フラミンゴ」に似たジャズすれすれの妖しいメロディだったが、今はその節さえ思い出せない。

謎月映画日。思い出せないというか解決しないと非常に気持ちが悪い現象はよくある。旅先のホテルで時間待ちの午後に見た映画がそれだ。ジャズマンが主役の日本映画で、初対面のトランペッターとギタリストが路地裏で音で喧嘩をする場面があった。これが強烈なアドリブの応酬で、まさに楽器で渡り合うジャズマン忠臣蔵と同じコンセプトだ。さあ気になって仕方がない。ようやく、このあいだ明治大学で行われた故岡本喜八監督の特別功労賞受賞イベントで、映画博士の森卓也さんに会って聞くことができた。後日、完璧な答えが返ってきた。作品は「嵐を呼ぶ楽団」(!)1960年宝塚映画・東宝配給。主演宝田明、高島忠男、雪村いづみなど。音楽は多忠修と河辺公一。河辺さんは当時ばりばりのトロンボーン奏者だからこの関係で実力ジャズマンが音入れに集まったのだろう。先のペット対ギターの戦いなど、高柳昌之かと思うような音が一瞬した記憶もある。この映画を再見出来る機会もあることが分かり、ようやく胸のつかえが全部とれた。などと寄り道しているNYトリオの旅日記は来年に持ち越しか。では皆さまよいお年を。1月13日の金曜日に東京オペラシティでお会い出来ることを願っております。



「CDジャーナル」2006年1月号掲載
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