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. | 2005.04 | . | ||
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. | イラストレーション:火取ユーゴ |
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傷月痕日。コンピュータの画面が急に暗くなってそのまま死んだ。修理に出して直ったものを大事に抱えて駐車場に降りるとつまづいた。おっとっとっとっと前に倒れる時に、マシンを抱いたままヒジから落ちた。下になった手の甲がずり剥けた。両手に大4つ小2つの傷だ。バンドエイドをするとじめじめして気持ち悪いので、薬をつけて空気にさらして直した。やがてカサブタが盛り上がり、相当目立つ傷痕となった。必ず「それどうしたんですか」と聞かれる。ミズマ画廊で個展をやっていた筒井伸輔さんも「ピアノでそうなったのかと思った」って言うけど、手の甲ですからね。でも、第一感でピアノを弾いてそうなったと思う人の方が多かったのは事実だ。喧嘩で素手で殴り合ったと言ってイバろうとも思ったがこれは無理。結局笑われるが、皆さまはどうだろうか。修理したばかりのコンピュータを放り出して自分をかばうか。ま、バーカ、そんな所でつまづくかって言われればそれまでなんですけどね。 6月6日。6台のピアノを6人のピアノ弾きが同時に弾こうというとんでもない催しに参加した。ただしこういうこと、初めてではない。大昔(って大げさだけど)何十台のピアノを一緒に弾いたという経験がある。島田瑠璃さん提唱のイヴェントで、参加者はピアニストに限らず、ジョン・ケージやジェフスキーの作品をやるという相当アナーキーなものだった。銀座ヤマハの楽器売り場に並ぶピアノが使用された。今回も新築コンサートホールのミューザ川崎にヤマハのフルコンが揃うという。ホール・アドヴァイザーになっている佐山雅弘が発案して実現したものだ。集まったのは、小原孝、国府弘子、佐山雅弘、塩谷哲、島健という面々。それにしても一体どうするのだと、一年前から皆で集まって会議を開いた。怒号と殴り合いの結果、というのは嘘で、時には伴奏者にもなる忍耐と人徳を鍛えているピアニスト達の話し合いで、以下の出し物が決まった。まず一人一人がその日の為に作った曲を弾く。それからデュオを3組とトリオを2組、最後に6人全員でやる。それにしても6台のピアノの配置やどのピアノを誰が弾くかなど、怒号と殴り合いの問題が山積のはずだったが、これもピアニストの知性と教養と寛容の精神によって合意を得た。どのように6台のピアノを配置したか簡単には説明不可能なのでどうかご想像ください。 本番は、まず山下が前座をやり、続いて島健、国府弘子、小原孝、塩谷哲の順でソロ。弾いた者はそのままピアノに座って待っている。やがて最後に佐山雅弘が出てきて「Kawasaki Reborn Blues」を始めると途中から編曲通りに全員が参加し色々やってエンディングを決めた。そのあとは、国府・山下で「寿限無」、塩谷・小原でダリウス・ミヨーの「Scaramouche」、島・佐山で「スペイン」をやり休憩。後半はまず島・塩谷・山下で島健氏作編曲の「Suite For Piazzolla」。これは名曲かつ難曲で山下はただただ勉強のみでした。次が国分・小原・佐山でミシェル・カミロの「オン・ファイヤー」。それからいよいよ6人揃って「ボレロ」をやる。これはほとんどアドリブ無しで、編曲の塩谷氏が「完璧」と喜んだ演奏になった。アンコールは国府女史編曲の「テイク・ファイブ」。メロディーを割り当てられ、指順を小原氏に教えてもらう破目になった。途中で全員が立ち上がって歩き回りながら手拍子をやるなど客席ともども盛り上がる。こうして前代未聞の試みは無事終了した。再演の声が早くも上がっているので、各ホールはすぐにピアノを6台準備するように。 和月平日。大津のびわ湖ホールで第一部ソロ。第二部金子飛鳥(vn)とデュオ。ジャズマン忠臣蔵の「お軽勘平の道行き」で初演した「Flight For Two」を一般公開する。あとは金子飛鳥作の「Wild Boar」「風の谷」それに「キアズマ」やリクエストの「G線上のアリア」や「砂山」をやった。アンコールは「クルディッシュ・ダンス」。 昼公演終了後、予定より早い新幹線に飛び乗る。混んでいるので誰の隣になるか分からない。案の定、座ろうとした席の窓側で、コクヨの原稿用紙に万年筆で書いている人がいる。今どきすごいなあと思いながらよそを向いていたら、名前を呼ばれた。立松和平さんだった。スリムになっていたので横顔からは分からなかったのだ。びっくりしつつ昔に戻る。和平さんの膨大な仕事の話を聞く。飛行機で書き列車で書く。手書きがいちばんよいという主張にコンピュータを取り出してやって見せる。そういえば大昔に(って大げさだけど)椎名誠さんにも同じことをやったことがあったなあ。椎名さんが今ワープロになっていたらおれのせいだぞ。やがて和平さん「その手、どうしたの?」。わけを話すと、「そんなになるまでピアノを弾くのかなあって、思ったんだよね」と、あの和平節でおっしゃった。ありがたいありがたい。 「CDジャーナル」2005年4月号掲載 |
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