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. | 2004.12 | . | ||
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. | イラストレーション:火取ユーゴ |
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出発月到着日。「Pacific Crossing」コンサート・ツアーで米国へ出発。機内で映画「下妻物語」を見る。意外な面白さにびっくり。日本映画は自分も音楽をやっているのに滅多に見には行かず、飛行機内でチェックすることが多い。JFKのイミグレーションでの指紋採取は、左手右手の順で人さし指を機械に押し付ける。ブラジルがこれに反発して米国人入国者の両手の指全部にインクをベタベタ塗って指紋をとるという報復手段に出たというが、日本なら納豆とクサヤ汁の中に両手を突っ込ませるのがよいと思う。入国検査官の口頭質問にスタッフの一人が引っ掛かったが、後で聞いたら入国目的を聞いて「エド・ブラックウエルの息子と親友だ」という業界会話だったそうだ。やはりアメリカだなあ。ホテルで一休みの後、ジャパンソサエティの宮井さんとの顔合わせを兼ねて、出演者スタッフ全員で夕食会。近所の「スミス&ウォレンスキー」というステーキ屋で断崖岩のような大フィレステーキを平らげる。早くも米国体質になってきた。その後、NYは久しぶりという仙波清彦師匠をご案内して、ヴィレッジに行き、元「スイート・ベイジル」の「スイート・リズム」と近所の「ブルー・ノート」をはしごする。「スイート・リズム」では今のオーナーのジェームスが「ウォールストリート・ジャーナル」を持ってやってきた。本誌でも経過を報告をした「セシル・マクビー」訴訟の記事が、最近「ウォールストリート・ジャーナル」の一面にセシルの似顔絵ともども出たのだ。ジャズ界は大騒ぎでセシルは友達から何度も電話をもらった。フロアマネジャーのスティーブもジェームスもその話ばかりで、「今にセシルは大金もらってここらにその名前のジャズクラブを出すぞ」など大盛り上がり。バンドはアフリカ人パーカスがバンマスの、アルトサックス、女性ベーシスト、日本人若者ギターという編成で、面白い音楽だった。そこだけいつも大盛況のゲイの店「モンスター」のそばを通って「ブルーノート」へ。ロイ・ヘインズ出演なのでさすがに満員。立ち見で一人二十ドルは高いか安いか。ちなみに我々のコンサートは三十五ドルで、こちらでは若者には高いという感覚だ。 休月日日。セシルと近所のインド料理屋でビュッフェの昼食を食べ、部屋でロスのラジオの電話インタビューを受ける。「シャボン玉」と「五人囃子」をかけてもらいながら女性キャスターと話をする。話が分からなくなるとすぐにセシルにバトンタッチする。フェロンはコネチカットで授業がありここは欠席。二時から個人練習。借りたスタジオの同じ部屋から昨晩ロイ・ヘインズとやっていたケニー・ギャレットが出てきた。日本語が上手ですぐに何だかんだという話になる。NYのスタジオではよく起きるすれちがい社交だ。夕方、ドラムの高橋信之介と待ちあわせて食事をしながら情報交換。夜には、ソーホーのど真ん中の鉄筋ビル広大ワンフロアーに住まう親子三人画家家族の依田家へセシル共々行く。同じく画家の鞍井綾音嬢も合流。依田さんは恒例の目前蕎麦打ちを披露。これは極ウマでいつでも店を出せると皆が保証。 ロコ月コ日。午後、ジャパンソ・ソサエティにフェローン、仙波清彦師匠、藤舎名生先生と全員揃ってリハ。その後、安藤総領事主催の領事公邸でのレセプションパーティに日本人三人は出席。ロココ調の室内には、いままでトシコ・アキヨシとロリン・マゼールしか弾いたことがないというピアノが用意されていた。食事後、塩谷女史のご紹介で、ソロピアノ、歌舞伎プレイヤー二人だけの演奏、それから乱入しての日本トリオの三本立てをご披露する。紳士淑女多数出席。この日、ワールドシリーズ開幕。ヤンキース松井大暴れで先勝。松井の住居のあるビルを教えてもらったが、入り口で待ち伏せなどしてはいけない。 初月日日。幸い大成功の幕開け。ロビーでレセプションがあり、多種多様な方々に会う。丁度NYに来ていた洗足ジャズコースの卒業生たちもいる。その後、日本居酒屋で打ち上げ。可愛いウエイトレスが揃っていたが、こういう人たちは油断が出来ない。実はジュリアードで勉強していて、ついこの間、代役のソリストのチャンスをつかんで、昨日までアバドの指揮でバイオリンコンチェルトの欧州ツアーをやっていて、パリでちょうど聴きにきていたアラブの石油王の長男に気に入られて自宅に招待され、三人目の妻にならないかと求婚されたが、断わるとなぜかますます気に入られて、地中海の島を三つとヒツジ千五百頭をもらって、さっき自家用ジェットでNYに着き、そのまま走ってこの店まで来て、急いで着替えて、「はい、キムチ三つにマグロナットー三ちょう!」と叫んでいるかもしれないのだ。と思わせる街なんですね、相変わらずNYは。 「CDジャーナル」2004年12月号掲載 |
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