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muji . 2004.11 .
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. 山下洋輔の"文字化け日記"
イラストレーション:火取ユーゴ
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英月語日。全部英語でやるというNHKの海外向け番組の収録。司会が知り合いのピーター・バラカンさんなので、それを頼りに出演する。海外生活などで英語を話さねばならない日は朝起きた時から覚悟がいる。「さあ今日も英語の生活だぞ」と気合いを入れる。「イエス、ノーを即座にはっきり言う人間になること。練習。今は朝か、イエス、起きるか、イエス」など。あとは話すときに主語と動詞と目的語その他をくどいくらい言うことを確認。とにかく会話は「説明」と自分に言い聞かせるが、結局、気がつくとピアノの前に座って「サクラ」「寿限無」「ピカソ」「575俳句」「シャボン玉」「フェイズ・アフター・フェイズ」なと新旧作品を弾きながら、「わたち、色々なこと、ヒントにして、曲つくるあるよ」などとたどたどしい。「この日本の音階、これこうなるが、あなた、これ、曲が終わったと感じるか、どうだ、だから、わたち、こんなハーモニーつけて、節も変えてしまうあるよ。」この番組、戦争中にやっていた「アメリカのみなさ〜ん、日本よいとこ、平和天国よ、戦争やめてすぐに温泉に入りにきてね〜。音楽かけるわね〜、はい、グレン・ミラー」などという国威発揚謀略放送の流れを汲むという穿った見方もあるが、助けになっただろうか。

道月場日。以前、自分のホームページで「ジャズ道場」というものを持っていて、応募してくる人の音源を聴いては「ジャズピアノ・ストライド部門の入門許す」などとやっていた。中には玄人ハダシの者がいて、調べたらメンバーによく知っている同業者がいたりした。一番盛り上がったのは、焼酎のCMに使われた道場主の曲を、編曲、演奏するというコンテストを新宿ピットインでやったときで、このときには逸材が勢ぞろいした。入門者は道場の一画に部屋を与えられて、日夜研鑽にはげむ...筈だったが、なにしろ道場主がものぐさで、めったに道場に来ないので、今では建物は傾き、回りにペンペン草が生えて、破れた屋根から月が見えるという有り様だ。門弟たちはあきれて方々に散ってしまったが、たまに便りをくれる者もいる。「ドバラダ・コミック派」として入門を許した「ウクレレえいじ」君は方々で活躍していて、このあいだはオーストラリアからメールがあった。各地の野外ステージでやったり、シドニーのオペラハウスのコンサートホールで満員の客の前で英語でジョークを言い、持ち歌の「ヒマソング」を大合唱させて大受けしたらしい。ただし道場に応募してきた作品「君が代USA」はやれなかったとのこと。「ジャパンナイト」という日本の文化を伝えるイベントだったので無理か。この曲は、「君が代」の歌詞をアメリカ国家の節で歌うというもの。やってみるとすごく合うので爆笑する。「ウクレレえいじ版」では一回歌って繰り返しのコーラス部分になるが、最後までやると丁度「君が代」三回でぴたりとおさまる。スポーツの開会式などでコブシの入った君が代も現れるという解禁状態も見られる折りだが、やはりこれはまだ公開不可能か。こういう発想をするウクレレえいじ君は、アメリカンネイティブの血を引くと称し、以前に「東京乾電池」で柄本明さんの付人をしていた人と判明。

台月湾日。ユニバーサル台湾でソロピアノのコンピレーション・アルバム(今ではオムニバスとか言わないのね)を作ってくれたので、そのプロモを兼ねてソロピアノ・コンサートを台北と花蓮でやる。台北のホテルのロビーにある情報誌に顔写真と共に紹介がある。年末に来る渡辺貞夫御大のキャッチコピーは「亞州Jazz天王」。さすがあ、とその下を見ると、こちらは「鋼琴上的颱風」だって。記者会見場でピアノを弾いたが、カメラは結構無遠慮に近づき、「こっちを見て弾け」「颱風をやれ」というようなことですっかりタレント扱い。これを書いているときにエルトン・ジョン(艾爾頓・強)が台湾でメディアと大喧嘩している様子がテレビに写っていたが、ありうる土壌ですね。ホテルのテレビの音楽宣伝チャンネルには「早安少女隊」が出ていて、これは「モーニング娘」のこと。朝は早安か。言葉を覚えたいが、回りが皆英語を喋るので全然練習にならない。アルバムにはディレクターのバーナード・フー氏のリクエストによって、「農村歌」「Clinking Coins」「草螟鶏公」という夫々ポピュラーな台湾の歌をヒントにした「グレイスフル・イリュージョン」という新曲を入れてあるが、それもご披露した最終日の公演のあと、初めて野外市場に行く。鶏ではなく首の長い鵝鳥がずらりと吊るされている店に入って、その鵝鳥料理とサメの料理、ビールに地元焼酎で打ち上げ。サメはちょっと臭いがして駄目だったが、スライスされて味のついた鵝鳥は美味しかった。この首長鳥がアヒルかガンかバンか白鳥かダックかカナルか、未だにはっきりしない無学状態。ガチョウという鳥がいるんでしたっけ。



「CDジャーナル」2004年11月号掲載
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