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. | 2004.10 | . | ||
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. | イラストレーション:火取ユーゴ |
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五月輪日。この期間、高校野球にオリンピックにプロ野球と重なって怠けざるを得ないが、オリンピック選手の「ただただ練習」という姿を見て非常に不安になり、9月下旬の「ラプソディ・イン・ブルー」に加えて11月イタリアでの自作ピアノコンチェルト第一番「エンカウンター」の練習を早々に始める。選手に感情移入しているのか、体操の規定問題ノーミス月面宙返り二回ひねりノーミス完遂的精神状態での練習になって泥沼にはまりこむ。まずいまずい。 落月語日。NHK-FMの「日曜喫茶室」の収録。落語について話す。もう一人のゲストは歌舞伎の中村福助さん。レギュラーの独文学者池内紀さん、進行ははかま満緒さん。事前にメモを作って、あれも話そうこれも話そうと思っていたが、その場で話はどんどんインプロヴィゼーションして、何を話したか記憶に無い。しかし、落語について話し出すときりがないことがあらためて分かった。古典落語の時代背景は大体江戸から明治時代にかけてが多いが、そのころの音楽の実態なんてのもよく分かる。「小言幸兵衛」では家主の幸兵衛が家を貸すのが嫌で妄想を働かせるが、その中に一家親戚で集まって酒盛りをしている時に、「お向かいの娘さんが三味線が達者だから来てもらおう」という場面がある。その娘さんも喜んで、お化粧なんかして三味線抱えて やってくる。「ようよう」ってんで、最初は清元なんか歌っているがしまいには都々逸になって「若旦那、おひとついかが」と促す。若旦那が適当な都々逸を歌って心のたけを打ち明けるなんてことになって...というわけだが、これは豊かな音楽文化の証言だ。今でいえばパーティやっている所にお隣のお嬢さんが来て、ピアノ弾いてもらって盛り上がって、やがて「生オケどうぞ」ってんで、皆でピアノ伴奏で得意な歌や演奏をするようなものだ。豪華なものだが、これが長屋で起きていたわけだ。三味線は江戸時代ではギターのような舶来の格好いい楽器で、ものによっては、昨晩の内に一軒の廓で出来た唄が、翌日には吉原全部で流行っていたという現象もあったらしい、と、これは近藤等則(tp)から教わった。 食べ物も勉強になる。ご馳走といえば、「芝浜」などでは刺身にテンプラに鰻となっている。「三井の大黒」で分かるのは江戸の大工の食事のオカズはシャケ。名前を隠して居候していた飛騨高山生まれの左甚五郎が「ブリはないか」と言ってあきれられる。「薮入り」では、子供に食べさせようと、卵焼きや焼き海苔や納豆やごはんの炊いたのを用意する。結局今でもこういう物が一番美味い(個人的に刺身はNGだけど)。あと肉食問題というのがある。「二番煎じ」で食べている肉はイノシシだろうか。まだ侍がいる時代だ。牛肉もおおっぴらではなかったが、病人と称して味噌漬けの牛肉は食べたらしい。幕末の大名もそうだった。その牛肉が井伊大老のおかげで食べられなくったので、諸大名が恨みを持ち、桜田門事件のときに同情されず、切られた首の処分が転々としたと、筒井康隆「万延元年のラグビー」にある。神戸牛その他の食用ブランド牛肉がいつできたかも知りたいところだ。桂文楽のマクラに、牛肉が嫌いという友人に合鴨だといって鍋を食べさせるのがある。美味しいと言うので、それが牛肉だよとバラすが、相手も「あ、これなら好きなんで」という豹変男となる。これは牛鍋が流行った明治頃の話か。 優月勝日。前回授業に出てもらったと紹介した国立音大のビッグバンド「ニュータイド・ジャズオーケストラ」が、ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテストで最優秀賞になった。審査発表を目撃したが、あれは興奮しますね。前田憲男さんをはじめ錚々たる審査員10名が長い協議の上で発表する。全国から選ばれた40校が二日間演奏するのだから半端じゃない。発表はミスコンと同じで、下位から呼ばれるので悲喜こもごもだ。新人賞狙い校は大喜びだが、優勝常連校は先に呼ばれると喜びと失望が入り交じる。最後に国立が司会の国府弘子(これも偶然国立出身)から最優秀賞とコールされ、リーダーの米田祐也君(as)が最優秀ソリスト賞も取って、18年前の本田雅人や池田篤時代の再来を果たした。当時、初出場で優勝した時は、常連校から「クラシックやってろ」「こんなとこに来るな」「アマチュアじゃねえだろ」など褒め言葉にもとれる罵声を浴びせられたらしい。今回の勝利の陰には、アレンジャー浜博志氏との一年がかりの綿密なプランがあった。米田君アレンジのオスカー・ピーターソンの「ナイジェリアン・マーケット」ではイントロにヴァイブとマリンバを配し、浜氏アレンジの「ボヘミア・アフターダーク」では、後半にアルトとドラムのフリーソロ対決を置くなど、演奏者を知り尽くした構成だった。副賞は、マックとヴィーダーそれぞれ一年分(365個)及び「東京JAZZ」でオープニングアクトに出演。良いときにめぐり会い練習を見学し差し入れをした者としては、大変嬉しい日でありました。 「CDジャーナル」2004年10月号掲載 |
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