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. | 2003.11 | . | ||
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. | イラストレーション:火取ユーゴ |
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スポ月中継日。ライブでない録画のテレビのスポーツ中継って大体勝敗が分かるもんですよね。たとえばテニスなんか、何セット目かと番組の終了予定時間を見れば、あ、このセットで終わりだからこっちがこのまま勝つってすぐ分かる。ってなことをことさら言い立てて、家人に嫌がられてますけどね。 黒月征日。下関で黒田征太郎さんとジョイント。黒征さんの個展が下関美術館で行われている。画期的なことで、館内に足を踏み入れたとたんに黒征世界に圧倒される。巨大なキャンバスに描かれたものがいくつもあるが、それらはミュージシャンと共演したライブ・ペインティングが多い。その新作制作を公開でやろうというもの。下関市民会館で、激突。黒征さんは音に乗って腰を振り、スイングしながら巨大キャンバスを塗っていく。途中で、あ、いい絵になったな、と思う瞬間が何回も出現するが、そのたびにその上に、絵の具を叩きつけて覆っていく。または、がりがりと削って前の色を掘り出して形を描き出す。40分後、Kuのサインが書き込まれたので終わる。黒が基調の巨大な絵が出来た。翌日にはもう美術館に展示されたという。いやあ久々のレアな体験でした。終わってからロビーで、前回来たときに共演した中学生、小学生と再会して記念撮影。打ち上げで、「いい絵になったと思ったら、消えていく。惜しいと思うがどうか」との質問に、黒征さん「ぼくもそう思います」自信の一言だよなあ。 奇月庭日。下関で投宿していた「みもすそ川別館」は由緒あると同時にインパクトのある旅館で、萩焼の原田隆峰先生と囲碁を楽しんだ部屋には山下清の掛け軸があった。すぐそばが関門大橋で、海底トンネルの人道が開通した時に、通った清画伯が立ち寄って残していったらしい。地下の美術館には先々代が集めたという、中国皇帝の玉座から、鎧、兜、絵画、彫刻、陶器、武器などのお宝が山と陳列されている。庭の光景もすごい。池には大きな河豚、亀、鶴の焼き物が乱舞し、大狸がそれを見守り、塀からは石の白熊がのぞき、彼方にはいずれも巨大な、達磨像、安徳天皇入水の像、五重の塔、古代遺跡のような石灯籠、狛犬、布袋さま、韓国の道祖神、江戸時代の道しるべの碑、などが立ち並び、椰子の木も高々とそびえている。これは一体何かと呆然としているところに、庭の入り口の建物は由緒ある裁判所の門を持ってきたと言われて、トドメを刺された。 瀬月戸日。林英哲さんとの「乾坤価千金」デュオ・ツアー秋の陣で、瀬戸内海は生口島の瀬戸田町に上陸。三原から船で「瀬戸の花嫁」となって行く予定だったが、天気が悪く尾道から車で入る。しまなみハイウエイがほぼ出来ているが、本格的な全面開通の時に叩く祝賀太鼓チームを英哲さんが指導しているという背景もあって実現した。車で行くと、海ではなく次々に川を渡るという感じになる。瀬戸田町は平山郁夫画伯の故郷で、専用美術館や音楽ホールがある芸術立国だ。通り過ぎた隣りの因島は、囲碁ファンなら知っているが、本因坊秀策の生地で囲碁立国の趣がある。ホテルから電話をすれば、誰かが囲碁の相手に現れてくれるという話を聞いた。これ、ほかの分野でも真似するといいと思う。「野球やりたいんですけど」「はいはい、ポジションは」「一番セカンドで」「はいはい、すぐにまいります」ってんで、相手チームも用意されて遊んでもらえる。音楽もそうで、「あの、バイオリンなんですけど、カルテットできます?」「はいはい、ただいま参ります」って、セカンドとヴィオラとチェロが来る。これがジャズだとどうか。「ちょいとセッションやりてえんで、誰かよこしてくんねえ」「かしこまりました。お客様の楽器とジャンルはどのようなことに」「おう、こちとら、ラッパだい。マイルスとサッチモとドン・チェリーに、ちょいとニニ・ロッソも入ってるんで、よろしくな」「かしこまりました。それで失礼ですがお客様の腕前の方は」「そうよなあ、弱めの初段ってところで、ひとつ頼まあ」「かしこまりました。それでお相手の楽器とメンバーについて何かご希望がおありでしょうか」「それよ、普通のリズムセクションでいいんだけどよ、ピアノは髪長のミニスカートのネエチャンにしてな、それからドラムも、そのなんだ、大股のネエチャンでな、そんでもって、ベースも、そう、大女のネエチャンにして欲しいんだよな」「かしこまりました」「んでもって、ギターがいるんなら、パツキンのパンクネエチャンもいいよな」「はいはい、おりますですよ」「歌手もいいなあ。デカパイで酌のできるやつな」「かしこまりました。おまかせください」ってんで、どうしてジャズだとこうなるんでしょうね。 「CDジャーナル」2003年11月号掲載 |
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