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. | 2002.08 | . | ||
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. | イラストレーション:火取ユーゴ |
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某月某日 成田空港。4Gユニット<竹内直(ts)、水谷浩章(b)、高橋信之介(ds)>で欧州へ。一行5人中喫煙者3名。今や世の中は煙草飲みの敵らしく、見聞きする現象すべて、筒井康隆作「最後の喫煙者」そっくりだ。最後の一人になって自衛隊に狩り出されるのは誰だろうね。ところで、この喫煙者の行動を、酒飲みのそれだと思って見ると恐るべき中毒症状ですよ。空港に入るなりきょろきょろして酒の飲める場所を探す。搭乗寸前まで飲み続け、到着するとすぐに飲める場所を探して走り去る。打ちあわせの合間にもひっきりなしに飲み、仕事が一段落したといっては飲む。1日に20回は飲む。人の酒をもらって飲み、食べては飲み、飲んでは飲む。朝起きると飲み、夜寝る前に飲む。街を歩きながらもどこで飲めるか常に目を配っている。最重度のアル中ですね。こういう人たちにとっては十何時間の飛行機は恨み骨髄でしかない。恐るべき裏技の研究がはじまった。それは、トイレでビニール袋の中で素早く一服し、口を便器の中に押し込み、レバーを押すと同時に煙を吐き出して、シューと排出してしまうというもの。「あの吸引力は強力だから大丈夫ではないか」などと言うが、やめなさい! バレたらカムチャッカ上空から引き返して逮捕、賠償金請求で人生終りだよ。 某月某日 パリ・シャルルドゴール空港。ケルン、パリと気分よくやって4Gユニットは解散。信之介は近々、ニューヨークへ。壮行会でもう一度皆で東京で会おうと約束。おれはローマでソロをやり、再びシャルルドゴールに戻って来た。日本行きのサッカーファンが結構たむろしている。おもちゃのボールを蹴ってブティックの壁に当てている奴もいる。ユニフォーム姿で集まってビールを飲み、歌まで歌い出したのは、色からするとアイルランドのサポーターのようだ。決勝トーナメント進出は無理かと思っていたら、後日進出してきた。しぶといものだ。 某月某日 札幌。自作ピアノコンチェルト第1番「エンカウンター」と「オーケストラとピアノの為の仙波山」を札幌交響楽団と演奏するため、本番3日前に入っている。1年半前に釧路の金谷憙憲氏からこの仕事の話があったときに、ワールドカップの最中だから、くれぐれも本番日が札幌での試合日と重ならないようにとお願いしておいた。1974年に、ドイツ開催、ドイツ決勝進出、その決勝戦の日にミュンヘンのジャズクラブでやるということが重なった経験からだ。客はほとんどいなかった。呼んでくれた関係者は済まながりながらも、意気盛んで「サッカーファンは野蛮で芸術が分からない」と信念を貫いていた。数人いた貴重な客はドイツの「非国民」だったのだろう。今回ご配慮をいただいた結果、本番日はアルゼンチン−イングランド戦の前日になった。 2日間オケと練習。指揮は去年も「仙波山」をやってくれた小松一彦氏。第4楽章で締め太鼓を叩いてくれる植村昌弘君は、オケの練習の仕組みを徹底チェックしたいと、マエストロ小松に同行して2日間全部見学。練習の時間配分と段取り、的確な指示等々、別分野の音楽制作過程は色々なヒントを与えてくれたようだ。このコンサートは、第1部が伊福部昭作品、第2部が山下作品という光栄かつ貴重なプログラム構成になっている。 本番後、打ち上げのビールレストランは、やはり大試合の前日のせいか、騒然としていた。用意された部屋までカラオケを含む大音響が筒抜け。これはたまらんと、さらに奥まった部屋に一同は逃げ込む。伊福部先生のお嬢さんで陶芸家の玲さんもご同席。金谷氏、挨拶で「北海道の音楽史に残る意義あるコンサートであった」と述べられた。 某月某日 ワールドカップの進行と共に旅が続く。オーケストラ・アンサンブル金沢(指揮・大山平一郎氏)でソロピアノと「ラプソディ・イン・ブルー」。金沢市と富山の小杉町の2カ所。小杉町は日本代表の柳沢敦選手の出身地だと聞いて、ソロピアノの途中の喋りで触れる。ちょうどロシア戦に勝った直後だったので、会場は大盛り上り。 某月某日 この締切までのワールドカップの結果は決勝戦がドイツ−ブラジルとなったところまで。決勝の日、北海道で本番だよなあ。ブラジルびいきのヤヒロ・トモヒロと一緒だけど、気もそぞろだろうな。どうなったか次号で報告したい。サッカーと言えば、大昔におれは、必勝法として、武術の達人をメンバーにして、接触プレーで相手のエースの肋骨を折りまくるという作戦を提唱したことがある。無論退場覚悟。これを採用しないから日本は負けるのだ。あれは、喧嘩ですよ喧嘩。ヒジ打ちで相手の鼻をつぶすなんて当たり前でしょうが。こうなったら誰か、接触して五分後に相手が死ぬという秘伝の突き技を出す奴はいないのか。なんて事を言わざるを得ない間は、まだ弱いっていうことなんだよね。 「CDジャーナル」2002年08月号掲載 |
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