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. | 2002.07 | . | ||
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. | イラストレーション:火取ユーゴ |
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テレビドラマの怪ってありますよね。ハイヒールで正装の女二人が風光明媚な海岸で最後の対決をしている。人の足跡もついていないその砂浜にそんな格好でどうやって来られたのか。車はどこに止めるのか。電車で来てタクシーに乗ったのか。疑問はつきない。 某月某日 “東急ワールド・ミュージック・スペシャル”のリハーサル開始。スペシャル・ビッグバンドにゲストを加えて6都市を回る。ビッグバンドは、道下和彦(g)、水谷浩章(b)、高橋信之介(ds)、エリック宮城(tp)、佐々木史郎(tp)、原朋直(tp)、中川英二郎(tb)、池田篤(as)、佐藤達哉(ts, ss)、竹内直(ts)、小池修(bs,ss)、それに、編曲、指揮、トロンボーン兼任のコンサートマスター松本治。ゲストにAkiko(vo)、TOKU(vo, fgh)、そしてナビゲーターが早見優という豪華陣容だ。 Akiko、TOKU、早見優が揃って「It Don't Mean a Thing」をアンコールで歌う。その練習をしたいとピアノに近寄ってきた。「ちょっと触ってもいいですか」とAkiko。「あ、ピアノになんですけど」だって。分かってるっての。年上の者をからかうんじゃない!。 某月某日 怒濤のツアーは東京で幕開け。抽選招待券の倍率が60倍だそうで、当たらなかった知り合いが続出した。済みませんでした。札幌、名古屋、大阪、福岡、長野と転戦。どの街にも誰かの知り合いのライヴ・スポットがあり、ミュージシャンはそこに乱入して朝までジャム・セッションやり放題。中には、前乗りを利用して、選抜メンバーを募ってその街のライブハウスで一晩仕事をしてしまうというカシコイ者も出現した。見学に行ったら、ピアノレスのはずなのにピアノがセットされていて、結局弾かされた。どこまでもカシコイ奴だ。 ジャズの歴史を早見嬢と一緒にたどりながら、演奏で紹介するというのが大筋。ただしおれのやることなので、ショーの始まりは、全員フリーで吹きながら登場するという趣向にした。ディキシー・バンド、スイング・バンド、ビバップ・コンボが出現し、Akiko、TOKUが夫々の時代の曲で得意技を披露する。 某月某日 大阪。この日、早見嬢はコンサートが終わるやいなや会場から駆け出た。翌朝のテレビの生番組で無事優ちゃんを発見。「はなまるマーケット」で、「ちゃんぽん」と「ちゃらんぽらん」は違うと説明している。前者は中国打楽器の音のチャンと日本打楽器のポンで、異なるものが混在する様。後者は、ちゃら(いい加減)と、ほら(嘘)の合成語。ほらがぽらになったり「ん」が入るのは日本語の特性で、たとえば一分、二分と言うときに「ぷ」と「ふ」を我々は自然に言い分けている、などのお話。いやあ、勉強になりまし 某月某日 福岡。前乗りなのでいつものように「なかむら」で絶品のもつ鍋をいただき、隣のライブスポット「ニューコンボ」をのぞく。今晩出演の本田しのぶグループがリハをしていたが、そのメンバーになんとTOKUが入っている。友達なのだそうだ。いやまあ本当に音楽が好きな連中だ。見学の我々もツー・セット目に他メンバーと共に飛び入りということになった。途中、早退したが、その後も朝まで大騒ぎが続いた模様。皆元気だなあ。 某月某日 長野で無事にツアー打ち上げ。長野とくればソバで、ソバといえば「ふじおか」だ。翌日、長谷川書店の若旦那の案内で、黒姫山の麓まで出かける。11時半と1時半の2回が満員になるとその日はおしまいだ。木立の中に山小屋のように見えるその店の前には、ウィークデイの朝11時だというのに、もう客が開店を待って並んでいる。知りあい優先も電話予約も一切ない。4才以下の子供はお断りとこれもはっきりしている。ゴールデンウィークなどには長蛇の列で、当然、ありつけない人が出る。「このためにわざわざ九州から出てきたんだ。なんとかなりませんか」という人もいたらしいが、なんともならない原則だ。いただくものもあれこれはない。山菜と漬物が出て、あとは、せいろそば、そばがき、そばぜんざいだけ。ビール、酒は頼める。声をかけられて振り向くと、岡林信康がいた。長野で公演をして、この近所のペンションに滞在しているらしい。アンチ巨人同士の会話を交わす。やがて陶酔の宴の後、にこにこ顔のご主人藤岡さんが登場。小さな音で店内にずっと流れていたのは、以前にクラシックギターの鈴木一郎とウィーン・カルテットのために書いた曲が入っている、誰も知らないはずのアルバムの音だった。そのことを話すと、さらににこにこ顔が広がった。うーむ。おそろしい。 「CDジャーナル」2002年07月号掲載 |
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