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. | 2002.05 | . | ||
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. | イラストレーション:火取ユーゴ |
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ある晩、池袋の裏道で新しく出来たらしいライブハウスの前を通りかかったら、道に出ている案内板の楽器紹介に(pn)と書いてある。眺めていると、丁度お店のおねえちゃんが出てきたので、思わず話しかけた。「これピアノの意味だろ。普通は(p)か(pf)だよ」。するとおねえちゃん「あ、そうなんですか」といって指で黒板をこすって「n」を消した。それから「くわしいんですね、ピアノ好きなんですか」と言う。「うん、まあね」「自分でも弾くんですか」「うん、まあね」「あ、今度、出てくださいよ。来月はまだ空いてますから」だって。「うーん、そうだね、皆の都合もきいてみないと..」などと言いながらその場を去ったが、あいつ、分かっていて、からかっていたのか。そうでないとしたら、まだまだ頑張らなければならない、と反省するバンドマンでありました。 2月26日 江古田「バディ」早坂紗知(as)主催の恒例の誕生日セッション。さっちゃん、つの犬(ds)の元祖二二六生まれが揃う。助っ人は、永田利樹(b)、津上研太(sax)、川嶋哲郎(sax)、吉田隆一(sax)。前もって赤いものを着せたりはご勘弁、と言ってあったのでさっちゃんは遠慮して、はっきりおれが還暦だと言わない。なってしまえばどうってことななかった。年には十二支と十干がくっついていて、十干がヒノエで十二支がウマの場合、同じ組み合わせは60年経たないと現れない。生まれ年を再び迎え、生まれ変わるという意味もあって祝うらしい。これはつまり、十拍子と十二拍子が同時にスタートして、途中色々ありつつも、六十拍目にまたぴたりと合うのと同じだ。それを使った「還暦大交響曲」などという構想が一瞬が頭に浮ぶ。 2月27日 初台東京オペラシティ・ホール。ベルリン・フィルハーモニー・シャルーン・アンサンブルと和太鼓の林英哲の共演を客席で見る。おれの「Play Zone 組曲」が初演される。自分が一切手を出せない自分の曲を聴くのは特別な体験だ。舞台で発せられる音をただただ身をすくめながら聴いていた。幸い受け入れられたようで、拍手の続く中、舞台に呼ばれて挨拶をする。いつもとは違ったことを沢山要求してしまった英哲さんも、ジャズ・イディオムや即興をやらせてしまったベルリンの連中も、にこにこしているのでほっとする。彼らは練習熱心で毎日旅先でこの曲の練習を続けてくれたそうだ。先日の池袋裏道徘徊の日も、この曲のリハに備えての前乗りだった。 3月1日 静岡。日野晧正(tp)、川嶋哲郎(ts)と三人で変則コンサート。半年後には日野も、十二拍子と十拍子が合体する大台だが、まだ違うと言い張っている。駅を歩きながらおれを指さして「皆さん、ここに老人がいます!」などと大声を出す。相変わらずの野放しジャズマンだ。コンサートはそれぞれのソロ、組み合わせ可能なすべてのデュオ、トリオを網羅したプログラムを作成。大変楽しかった。アンコール曲で、日野は、なんと、歌とタップを披露して満場を湧かせた。タップシューズをちゃんと持って歩いている。さすがだ! 後日、日野の芸術選奨文部大臣賞(大衆芸能部門)の受賞を知る。ということはこの時はもう決まっていたのだ。言わないのは、水臭いのではなく、発表まで口外してはいけないと文部科学省から言われているからだ。おれも同じ経験をしたが、妙な気分のものだ。実際に事前に喋りまくって、取り消された人がいたという。日本舞踊の人だったらしい。他派のチクリがあったのか。やはり同賞受賞先輩の林英哲さんから、授賞式場での記念撮影はないから、記念写真が欲しいなら自分の身内にすばやく写真をとってもらうしかないと言われたのを思い出す。日野に先輩面して申し送ることにしよう。 3月2日 三鷹市芸術文化センター風のホール。茂木大輔の指揮、実演によるオーケストラの解説シリーズを客席で聴く。今回は「ベートーベン四番徹底解説!」これが報復絶倒の「交響的食事」解説だった。 同じ内容を茂木さんが月刊誌「パイパース」用に書いたものもあるが、到底すべては紹介できない。第一主題の米の飯や第二主題のシャケや、他のさまざまなおかずを食べて行くというものだ。たとえば、謎とされるゆっくりの序奏部はみそ汁なので、それをまず飲む。するとこれはシャケなどの入った意外に豪華なものであることがわかる。大根などもあるからこれはピツィカートで食べる。やがて口中に塩分が十分に行き渡ってもはや我慢も限界になったところで、どんぶりをわしづかみにして第一主題の米の飯をむさぼり食う。というのだから思わずイエーイと叫びたくなる。そして、「米の飯(第一主題:変ロ長調)が待ちに待たされた緊張感からの開放とともにTuttiで飛び込んでくる。最初のふた箸はなだれ込み(装飾音型を伴う第一主題第一動機)、そのあとは規則的に咀嚼する(分散和音型:第二動機)」などと、綿密なスコア分析のもとに、全楽章が解説されるのだからたまらない。いやあ、実に美味しい時間でありました。 「CDジャーナル」2002年05月号掲載 |
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