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muji . 2001.12 .
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. 山下洋輔の"文字化け日記"
イラストレーション:火取ユーゴ
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 「音楽テーマ事典」をご存知だろうか。メロディは覚えているけど誰の何という曲だっけ、というときに利用する。ただしこれすべての人に、「移動ド音感」があるという前提のもとに出来ている。たとえば「運命」の出だしは「ミミミド」か「EEEC」で探す。移動ドの実用性をよく示す例だ。これ、絶対音感の人も使用可能なのか知りたくなる。事典は今のところクラシック曲ばかりだが、ジャズで同じものが出来たら面白い。「ソソソソソソソソソソソソソ」すぐ分かるワンノート・サンバ。



9月30日  京都。今日から3日間、ライブスポット「RAG」の20周年特別興行の一環。初日はソロ・プラス吉田美奈子。久々に美奈子節を堪能。楽屋にオーナーの須田さんの娘アサヒ六歳が登場。音楽に興奮したのか、習っている日本舞踊「證誠寺の狸囃子」を披露し、ステージの絵を描いてくれ、やがて美奈子さんの巨大な髪の毛をいじり回し、体に体を巻き付け、とうとうその中にもぐり込んで住んでしまった。動物と子供には特別の波長回路があるという美奈子さんには当然の出来事らしい。
 二日目は「4Gユニット」竹内直(ts, bcl)、水谷浩章(b)高橋信之介(ds)。4Gの意味は四つのジェネレーションで、2,3,4,5となっている。最年少は23歳になったばかりの信之介、最年長はおれだが、近々一つ増えるので、きれいな数字の流れが乱れて悲しい。打ち上げはこちらは途中でくたばったが、メンバーでは案の定、朝までの最長不倒距離が出た。相変わらず元気な水谷君だ。
 三日目は茂木大輔(ob)と金子飛鳥(vn)のトリオ。お二人には来年正月11日に初台の東京オペラシティ・コンサートホールでやる「超室内楽」コンサートのメンバーになってもらっているので、予告を兼ねて暴れてもらった。茂木さんには自身の木管五重奏を率いて参加してもらうので、各楽器の特性など質問しまくる。彼は「オーケストラ人間的楽器学」というオケを使った素晴らしいプロジェクトを続けていて、去年の大晦日には、若手指揮者としてのデビューも果たした。



10月6日  宮崎県の木城。山の中にある「えほんの郷」で、毎年一度金子飛鳥が野外コンサートをやっている。織姫と彦星のコンセプトなのだが、なぜか毎年違う男を連れて来る結果になる。ここはおれも以前から縁があって、1月の寒空に山のてっぺんで野ウサギに聴かせるという趣旨のもとに、仙波清彦(perc)とデュオをやったこともある。もっともこれがヒントになって後に絵本「つきよのおんがくかい」ができるので首謀者の黒木郁朝さんには感謝しなければならない。
 「えほんの郷」の館長の黒木さんは夏には子供の合宿塾もやっていて、そこでは「親に言わない秘密をもて」などと教える。釣りも大事で、魚を強くつかむと死ぬが弱すぎると逃げる、身体で分かるその感触を知らない子供が増えるので、色々問題が起きるという。夜、野外の水の上のステージに左右の花道から出てデュオを奏でる。飛鳥さんのバイオリンの音が山々に沁み、やがて見事な月が誘い出された。



10月10日  日吉の慶応大学でジャズ入門講座。在校生、学外の社会人の方々などが聴講。首謀者はベルリン留学中におれのコンサートにも来てくれたという独文学者の斎藤太郎先生。紹介者の仏文学者荻野アンナ先生も顔を出してくれる。横浜での美術祭で手に入れたという、文字盤に「遅れるな!」と書いてある腕時計を見せてくれる。それを指して「私グズ、これグッズ」と早くもアンナ・ダジャレ全開。これを言うために手に入れたに違いない。
 講座の内容は、「教養講座“日本ジャズ界の変遷”」という昔のレコードをかけてから始める。最近あらためて聴く機会があって、導入部として実に適当であることを発見した。この中洲産業大学芸術学部器楽科のタモリ教授は、クラシックが専門なのだが、ジャズに造詣も深く連続講座をラジオで持っている。ジャズのアフリカ起源、ブルーノートについての言及(「ワークソング」からブルーノートを取り去ると沖縄民謡になってしまうという驚くべき指摘もある!)、ジャズマンの反対言葉に潜む法則性、「アベサダとジャズ」「山下のスポーツ・ジャズ」などなどを、タモリ教授は歌とピアノの実演を交えて行う。最後には「どうせたかが民族音楽のことで、ジャズがどうなろうと、クラシック専門の私などは、どうでもよろしいのですが、おほほほほほ ・・」などと甲高い声を出して、キザ教授の本性が現れる。
 このレコードをかけ、タモリ教授のご意見をたたき台にして、そこに別の解釈を加えたり、もっと詳しく説明したりすると、非常にスムーズにトーク・ショウが出来ることを発見したのだ。無事終わり、先生達と会食。斎藤先生が横浜ベイスターズ・ファンと知って盛り上がる。来年、谷繁が残っててくれるように祈りつつ、帰途についた。



「CDジャーナル」2001年12月号掲載
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