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muji . 2009.04 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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新年早々、つのだたかし氏より新作到着。
「友達と遊ぶ日は月曜日だけと決めていた有名指揮者がいた。その名は、ユウジン・オールマンデー」わっかるかなあ、わっかんねえだろうなあ←これもわっかんねえだろうなあ。

その新年は、西宮の兵庫県立芸術文化センターで自作コンチェルト第3番「Explorer」を再演することが出来た。兵庫芸術文化センター管弦楽団・指揮佐渡裕で何と定期演奏会3日間連続だ。第2部のメインプログラムはショスタコヴィッチの交響曲第五番。このプログラムで明石市でもやったので、4日連続自作コンチェルトを弾いた男となった。以前に自慢した「イタリアに自作コンチェルトを弾きに行った人間」に続く記録達成ではないかと一人で舞い上がっている。それもこれも全て佐渡さんとゼネラルマネージャーの林伸光さんのおかげだ。

 初日のあと、佐渡さんご夫妻のお招きでステーキ屋さんで食事。そのお店「たけうち」は佐渡さんの好みを知り尽くしていて、出された数キログラムの極上サーロインを佐渡さんはぺろりと食べてしまった。噂通りのジャイアント・グルメ・マエストロだった。編曲の挾間美帆やスタッフ一同も喜んで肉にかぶりつく。

 あっという間に過ぎた四日間の最終日は、佐渡さん運転のアルファ・ロメオで明石から神戸までひとっ飛び。老舗ジャズ喫茶「木馬」でくつろぐという最高のコーダが用意されていた。ニクイことするなあ。

その「Explorer」を去年初演した東京オペラシティでの恒例の新春コンサートは、今年からはプロデューサー役になる。まずは茂木大輔をプレゼントして指揮に演奏に作曲にとアバレてもらった。「のだめ」オーケストラの創始者としての名刺代わりに「ベト7」で開幕。例によって東京フィルハーモニー交響楽団の全面協力をお願いしている。それに続いて松原勝也さんに書いたおれのヴァイオリンソナタ「Chasin' the Phase」が、挾間美帆編曲でオーケストラ曲に変身して登場。生まれて初めて味わう不思議な快楽だった。次が茂木大輔作曲の「ファンファーラ」。公演後帰宅したクラシック奏者がビールを飲んで寝てトルコ音楽にうなされるという茂木ドイツ体験による曲だ。モーツァルトもベートーヴェンもとりこになったトルコ音楽の魔力全開に茂木ユーモア感覚が加わって大傑作になった。休憩時間にテーマのメロディを大声で歌っているお客さんがいたという筒井康隆さんの目撃情報もあって大成功。

 第2部は、茂木氏のオーボエと植松透氏の大太鼓のデュオ勝負。最初にAの音を出してチューニングしようとするのを植松氏が必要ないからと手を振って断る仕草で場内大爆笑。二人の気がぴったりでうまいなあ! 初期ヤマシタ・トリオを手本にしたという大即興フリージャズは圧巻。茂木氏のアイデアは冴えまくり、植松氏はとても魅力的な即興打楽器奏者の姿を現した。

 そのあとに「交響詩ダンシング・ヴァニティ」の初演。これは筒井康隆の作品で交響詩を作れという茂木氏の要求が以前からあって、今回、挾間美帆に共作を依頼した結果、ようやく実現した。繰り返しの魔力に包まれる大傑作小説「ダンシング・ヴァニティ」を元に以下のような進行を作成した。

 第1部。始まりのテーマ→フクロウのテーマ→事件→家族団欒→スーパーマンのテーマ→へんてこな行進曲→それらの入り乱れての繰り返し→パーティ音楽→ジョーズのテーマによる予感→妹の怪挙「投げ落とし」のテーマ。
 第2部。江戸時代へワープ→へんてこな行進曲来襲→徴兵されて戦争→号令と匍匐前進→戦闘場面活劇音楽→負傷!→野戦病院で「目玉ちゃん」に会う→ベティ・ブープからの音楽が響く。

 第3部。都会で匍匐前進→フクロウに再会→「キトクロの歌(Dancing Owl)」を教わる→XUXUによるコロスの歌とショー(歌はXUXU編曲)→「キトクロの歌(挾間美帆作曲)」→客席とCall & Response 。

 第4部。パーティ場面の反復→虎の大暴れ→中国へ→中国語の歌→子守歌→ピンクアウル→家具のお喋りで始まる「廃屋のアリア」→始まりの反復→喧嘩→敗北→死の前のパノラマ現象→Good Night Sweet Heartが聴こえる→主人公は死んでいく→枕辺で顔を覗き込むフクロウ。その片方の眼がしらに一滴、涙が光っている。

 ということだが、わっかるかなあ。4人組女性不思議アカペラグループXUXUはコロスそのもの衣装で出現した。本を読んで来られなかった方々、どうか悔しがってください。

  筒井さん、村松友視ご夫妻、玉木正之さん、ブーニンなど大勢の方々が楽屋にきてくれた。森麻季さんには無事ご出産のお祝いを申し上げた。昨年五月西宮での「フリン伝習録」ご出演の時にご懐妊中で、舞台ソデでお腹に触らせてもらっていたのです!



「CDジャーナル」2009年4月号掲載
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