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muji . 2007.06 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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  名古月屋日 名古屋電気文化会館でソロピアノ。終演後、ジャズクラブの「ラブリー」に行くと森山威男クインテットに遭遇。林栄一(as)、竹内直(ts)、板橋文夫(p)、望月英明(b)というメンツが狭いステージに集結しているのは実に濃い風景だ。というか、むしろコワイです。

晴月海日 濃いメンツと言えば立川の居酒屋「くぼがた」連合もすごい。マスターの田邊棟梁を始め常連のナツキさん、大橋さん、エミちゃん以下総勢20名で第一生命ホールのソロピアノに来襲してくれた。「酒を飲みながら聴けるの」と訊く棟梁(実は一級建築士)のお言葉に「そ、それはご勘弁」。で、ご一行は開演前の昼食時に月島のもんじゃ焼き屋に集結して、前祝いの宴をやったらしい。後日酒場で「センセイさ、あのヒジウチは指動かすのがクタビれたからやってんじゃないの」と冗談を言う棟梁のお言葉に、あらためて初心に戻って飲み直すワタクシでありました。

松月井日 友人の画家松井守男が帰国中で会いに行く。まずは目黒のトンカツ屋さん「大宝」で昼食。壁に松井作品が並ぶ理由は20年前の帰国以来、店主のマダム石川ともよさん、大将の鴇田廣さんと親友になっているからだ。その縁で常設美術館「エスパス・モリオマツイ」(館長中本達也氏)が大鳥神社の隣のビルの中にできた。松井の記念的大作が常時見られる最高の場所だ。最近仏国からレジオン・ド・ヌール勲章をもらったこの画家の絵を店の壁にかけているのは超豪華だが、ジャケットと中身に沢山の松井の絵を載せたCD二枚組『目をみはるキャンバス』『耳をすますキャンバス』を持つおれも負けてはいませんよ。全ては40年前に偶然入った画廊で松井の絵に出会って衝撃を受けたのが始まりだ。その後仏国に渡った彼との不思議な長いつき合いは方々に書いたから繰り返さないが、とにかく会うたびに、血湧き肉踊る話が止まらない。コルシカに住む松井は、F1のモナコ・グランプリをファンでコレクターのバーニー・エクレストンのヨットの上から観戦するなどが当たり前の社交生活だが、絵が描きたくなればそういうものは全部吹っ飛ばしてアトリエにこもる。いつものように世界的極秘爆笑話や激怒的日本画壇秘話の数々を聞いて時を忘れる。

法月政日 法政大学が祖父の建築家山下啓次郎についての展示とイベントをやってくれる。孫として参加しろというので、親戚にも知らせると当日14人招待された。午前中に新校舎工事開始の神事があってそこに一同参列。祖父啓次郎は、明治の五大監獄の設計だけかと思ったら、法政大学の通称六角校舎といわれる第四校舎(すでに解体)と、今回、解体される図書館のあった第一校舎も建てていたのだった。兄の家にあるさまざまな展示用の資料を栃木利夫先生、江戸恵子さん、後藤寿子さんがカメラマン氏を伴って取りにきてくれ、展示してくれた。午後からのイベントはまず永井進常務理事、小林尚登先生のお話に続き、パネルディスカッション。パネリストは大江新先生、高村雅彦先生。司会は高橋賢一先生。山下も参加して家に伝わる啓次郎の話などする。両先生はスライドを駆使して、写真や設計図やCGや透視図や図版を提示する堂々たる発表で、啓次郎の業績を明らかにしてくれた。謎とされていた樺山資紀邸も啓次郎の作と分かり、高村教室の生徒さん達が設計図を元に精密な模型を作ってくれたのには驚嘆した。その後、同じ会場でお礼のソロピアノ・コンサート。終了後はロビーで飲み放題のレセプションパーティという豪華版だ。法政のジャズ事情を聞くと、ジャズ研もビッグバンドもあって熱心な活動をしている。法政大学のバンドマン諸君、今度、是非接触しましょう。

葉月山日 朝早く車で葉山に向かう。立川に引っ越して20年になるがその前の10年近くは葉山に住んでいた。家内共々里帰りの気分で車を飛ばす。約2時間で着いたが、御用邸前の目当てのお蕎麦屋さん「如雪庵一色」が開く時間の前だったので、勝手知ったる場所に駐車して海に行く。強風の葉山海岸が懐かしい。風上に向かって空中に止まって浮かんでいるトンビもおなじみだ。海を右に見て浜辺を歩くと芝生のある小さな岬がある。その突端付近に皇宮警察の監視所が出来ているのが以前と違っていた。さらに歩いて公園を抜け、海岸道路に戻って御用邸前のバス停に着く。この間約1時間。そこのベンチに座って通りの向かいのお蕎麦屋さんが開くのを待った。やがてノレンが出されると、すぐに入って行く人がいる。続いて入って座っていると、次々と人が来て店内はたちまち満員になった。お蕎麦を食べ、ご主人の浅野さんに挨拶し、車に戻って湘南国際村のホテルに向かう。夜は大道の「もうひとつの風景」という店で、金子飛鳥(vn)をゲストに迎えてのライブだ。



「CDジャーナル」2007.6月号掲載
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