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muji . 2003.09 .
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. 山下洋輔の"文字化け日記"
イラストレーション:火取ユーゴ
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音域月墜落日。メジャーリーグでは毎試合誰かが国歌を歌うが、あれにはいつもひやひやしている。最初にうっかり高い音程で出ると途中で最高音が出なくて自滅する。実際にそういうことがあった。大昔に作った『クレイ』というLPの中に、当時のカシアス・クレイが日本でやった試合の前に歌われた米国国歌が入っているが、これが目茶目茶。ブラックシスターの歌手だが、高く出過ぎて途中、自己の出せる最高音域の壁にぶちあたり、絶叫と共に墜落した。1オクターブ下に退避して態勢をたて直せばよかったのだが、キリモミ状態で墜落迷走したので、いやはや、えらい国歌になった。君が代でこういうことになったら、どういう制裁があるやら恐ろしいが、アメリカ国歌はいかようにもフェイクできて、ブルース節ばりばりになっても皆当然と思っている。こういうところはいい国なんだけどねえ。

中継月音操作日。野球ついでに言うと、大リーグのテレビ中継。ピッチャーの球がホームベースを通過してキャッチャーミットに入るときにすごい迫力ある音がするが、これは絶対にあの瞬間にミキサーがボリュームを上げていると睨んだ。あきらかにその瞬間ノイズともども「ジョワ!」とかいう音が強調されるんだぜ。ルディ・ヴァンゲルダー直系の主観録音の伝統にちがいない。一度音響の専門家と一緒に見ながら疑問を質したいものだ。

世界月水泳日。メールにライブ情報殺到。「おまえの曲でシンクロやっていたよ」。世界水泳でソロの立花選手が映画音楽「助太刀屋助六」で演技しただって。全然事前連絡ないのよね。知っていれば応援するし、練習も見に行ったのに。「そこは三十二分音符で痙攣!」などとわめいたのに。後でビデオを見たら、その通りにやってくれていた。脱帽。

誘月拐日。小学生女児4人の誘拐に関係あるアルバイト勧誘のチラシの文面がテレビで見えた。「アルバイトのお金で、セシルの服買えたよ。おかげで彼氏もゲットしたよ」など。「セシルの服」とは「セシル・マクビー」に違いない。とうとう低年齢化はここまできた。以前に御報告通り、名前を無断で使われたNYトリオの相棒べースのセシル・マクビーは鬪い続け、リーガルサスペンス小説さながらの攻防が展開されているが、とうとう日本の「セシル・マクビー」側が、米国人セシル・マクビー氏の権利が保障される居住地、メイン州の法廷に呼び出されることになった。日本危うし! 特許問題の裁判で日本が負けたという報道はいつも悔しいが、今回だけは非国民になって米国を応援させてもらうことにする。NYトリオは今秋15周年記念の新譜プロモで来日するが、それまでにどうなっているか、話を聞くのが楽しみだ。ちなみに新譜のタイトルは「PACIFIC CROSSING」。ロッド・スチュワートのファンの方々、乞御容赦。

富月田日。鼓童の以前の主力メンバーで、いわば「富田流芸能太鼓」確立の、富田和明さんのリサイタルに助太刀。リハでいきなり、外郎(ういろう)売りの口上と共に太鼓を叩きまくり、これを一緒にやれとのお言葉だ。いやあ、人をよく分ってくれている。譜面(?)は平仮名だったが、面白いので、適当に漢字にしてみる。「拙者、親方と申すは、お立ちあいの内に、ご存知のお方もござりましょうが、お江戸を立って、二十里上方、相州小田原一色町を、お過ぎなされて、青物町を、上りへお出でなさるれば、欄干橋、虎屋藤衛門、只今は剃髪いたして、円斎と名乗りまする。来るは来るは、何が来る。紺屋の山のおコケラ小僧、狸百匹、箸百膳、天目百杯、棒八百本、武具馬具ぶくばぐ三ぶくばぐ、合わせて武具馬具六ぶくばぐ(「武具馬具からここまで三回リピート、ただし三回目は「三ぶくばぐ、」の「、」の休符は半分)。あの長押の長薙刀は誰が長薙刀ぞ、向こうの胡麻がらは、えの胡麻がらか、真胡麻がらか、あれこそ本の真胡麻殻。がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきゃがれこぼし、ゆんべもこぼしてまたこぼした。たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりからちりからてったっぽ、たっぽたっぽ一丁蛸、落ちたら煮て食お、煮ても焼いても食われぬものは、五徳てっきゅうかな熊童子に石熊石餅虎熊虎きす、中でも東寺の羅生門には、茨木童子が腕ぐり五合つかんでおむしやる。かの頼光の膝元去らず、東方世界の薬の元締め薬師如来も照覧あれと、ホホ敬って、ういろうは、ういろうは、いらっしゃりませぬか。ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハハハハハハハハハ・・(ドドン!)」。これをまくしたてながら同時に猛スピードで。ドンドン、ドコドコド、ドンドコ、ドコドコドドンコ、ドドン、ドコドコドコ、ドコドコドコンコ、と叩きまくる。これには反応しないわけにはいかない。負けずに、ギャロン、ギャロギャロ、ギャギョ、ギョギャギョギャ、などと対抗した。この後、鼓童の世界の顔、藤本吉利さんが登場して、唄に口上、手拍子に阿波踊り、佐渡おけさに三宅太鼓に屋台囃子の大太鼓と、十八番全部共演させてもらった。ああ、面白かった。



「CDジャーナル」2003年9月号掲載
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