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muji . 2002.12 .
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. 山下洋輔の"文字化け日記"
イラストレーション:火取ユーゴ
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 皆さんは白熊をご存知でしょうか。鹿児島名物の食べ物のことなんですけどね。最近これが東京のコンビニにも出現していて、鹿児島に少し縁のあるおれも気になっている。それでどこまで白熊は遠征しているのかと、仙台の先の石巻に行ったときに聞いてみたら、ちゃんとあった。南の白熊、北上して全国制覇中か。しかし、先日飲み屋で鹿児島の人にそのことを聞くと、まず「激昂」だった。「コンビニのあんなものは白熊ではない!」と。いわく、自分の出身の志布志は、縄文時代の生活であって(嘘つけ)、本当の白熊は高嶺の花だった。かき氷に赤いものをかけて食べるのがやっとの時に、ウインドウごしに眺める白熊の高価で豪華なこと。いつかはあれを食べたいと願いつつ暮らしたのだ。それがなんだ! コンビニでこんなちっちゃなものが出てきて、白熊だと! とんでもない、断じてあんなものは白熊ではない! おいどんは腹立ちもす! ってんで、それ以上の考察はなされなかった。登録商標名は「氷白熊」というらしい。さすがに「白熊」では駄目だったんだろう。動物の白熊のことを言うのにいちいち許可をとるのは大変だもんね。真似して、氷イヌ、流しネコ、一口ウマ、なんてまずそうか。でも台湾では「熱狗」がホットドッグだ。これ本当。ところで、白熊ってくわしくは何だって? 教えない! 見つけてください。


洗月足日 洗足学園音大ジャズコース特別講義。筒井康隆作「バブリング創世記」をテキストにして配って、生徒の一人に朗読させ、それについて話をする。「最初に<ドン>だけでなくて<ドンドン>と二つあるのが、重要です」などと言いたい放題。「ジョジャジョジョジャジョジョジョジャジョジャジョジャガジャガジャガラジャガラを生み」など読めない所をわざとやらせる。大笑いするもの数名。きょとんとしてる者もいたが、あくびをする奴は、幸いいなかった。相倉久人さんも加わってくれたので、二人で筒井ネタトークになった。こういう授業ありなのかねって、自分で責任とれ!

森月山日 可児市で森山威男コンサート。昔なじみの夫婦二組で温泉へ。森山入浴方式はサウナ、露天、流し、といさぎよい。サウナでは昔新宿で、ヤクザの親分用に用意されていた玉座に森山が悠然と座り込んだので、大騒ぎになったことがあった。それらの昔話や今話で笑い転げているうちに時間がたつ。女組はとうに出ていて「長いのねえ」だって。新築の森山邸で、由紀子夫人、義妹の小枝子さん、愛娘の沙織ちゃん共々心尽くしの料理。沙織ちゃんはもうお父さんより背が高い。絶品の飛騨牛ステーキにシャンペンでとどめをさされ、陶然となって死ぬ。すぐに生き返って、お礼のカクテルピアノを弾く。「クラブ森山」が出現。ドラムのお弟子さんで主治医の藤井先生も現れて椅子をブラッシで叩いて大セッション。森山はソファですやすや。
 翌日の本番は、近藤房之助(vo)・ケイコ・リー(vo)ユニット、森山−山下デュオ、坂田明入りの再現トリオ、森山カルテット。森山カルテットの最後の曲「グッドバイ」で紙吹雪を散らした演出は、演歌と健さんの鬼、森山のアイディアか。爆笑、いや、感激感激。最後に、野力奏一(p)、田中信正(p)、望月英明(b)、金澤英明(b)、音川英二(sax)が加わった全員でジャムセッション。
 打ち上げは、九州から駆けつけた旧友たちもいて焼酎大会。坂田のドラ声弾き語りや、森山の菅原都々子も出たと思うが、もはや朦朧。

海月外日 洗足学園音大の学生オーケストラのアジアツアーにソリストで同行。自作ピアノ・コンチェルト第一番をやる。2000年に発表以来これで4度目の演奏。幸運な曲だ。台北空港から生徒は大型バス5台に分乗する。一応「引率教員」の名目だが、何もせんのよね。バス分乗では、もと芸者さんから聞いた話を思い出す。団体観光旅行で香港についたら「二号しゃん(車)はこちら」とガイドに言われてついて行った。「なんであたし達が二号だって知ってるんだろうね」「調べがついているんだねえ」だって。でも二号さんなんて言葉も今や死語か。
 小一時間乗って着いたホテルの隣が台湾コンビニ。あればとにかく寄って見るという体質になっている。台湾独特の八角のにおいが立ちこめる店内は生徒で一杯。こそこそとワインを買ってこそこそと出る。引率教員の重荷だ。と思ったら、ロビーや廊下で生徒につかまって写真撮影にサイン。そうかそうか、おれやっぱり教員じゃないのね。親睦おじさんね。ほっとしたよ。
 本番会場は國家音楽廰。ちなみにこちらではジャズは「爵士」で「邪頭」ではなかった。記者会見をやった老舗ジャズスポットの「ブルーノート」は「藍調」。会場楽屋口にはでかでかと「工作人」の字が書いてある。これはスタッフのこと。なるほど、とすると例の工作船に工作員というのは、親善芸能大会開催の為に、芸能スタッフが下見に来たと言い張れるかもしれない。それで会場側の応対が気に食わなかったので、マシンガンをぶっ放したと。実際、スタッフ連中、時にはこういうこともしたくなると思いますよ。




「CDジャーナル」2002年12月号掲載
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