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muji . 2001.09 .
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. 山下洋輔の"文字化け日記"
イラストレーション:火取ユーゴ
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 このコラム、実物(CDジャーナルの誌面)を初めて見たら字が異様に小さいですね。おれには読めませんが、皆さまは大丈夫でしょうか。極小文字ジャンルというものがあるのか、おれのCDジャケットのデザイナー持田愼介も自分でも読めない極小文字を駆使している。そういうものですかね。


5月23日 ケルンでの金子飛鳥(vn) とのデュオ・コンサートにブーニン一家が来たのにはびっくり。奥方が日本の方でご子息が一緒。以前対談をして、ひじ打ちを勧めたり、向こうがの主催のチャリティー・コンサートに招いてくれたりした。「今度一緒にジャズをやりましょう」「百年待ってください」などの会話あり。


5月24日−6月2日 コンダクターでトロンボーンの松本治以外は全部ニューヨークのミュージシャンでビッグバンドを編成し、ライブとレコーディングの日々を過ごす。練習、食事、練習、練習、食事、打ち合わせ、
練習、リハ、ライブ本番、スタジオ本番。
メンバーは、ルー・ソロフ (tp)、ジェイムス・ゾラー (tp)、レイ・アンダーソン (tb)、クレイグ・ハリス (tb)、スティーブ・ウィルソン (as)、ティム・リース(ts)、トニー・マラビー (ts)、アレックス・ハーディング (bs)、セシル・マクビー(b)、フェローン・アクラフ (ds)、ジャラワ・グレイ (perc)、松本治 (cond &tb)。これにゲスト・ソリストのジョー・ロヴァーノ (ts)を加えた読譜派、フリー派、主流派入り乱れてやりまくり、オリジナル曲7曲、ボーナストラック1曲が完成。編曲は栗山和樹、香取良彦、道下和彦、納浩一、松本治。リリースは10月。 結構、すげえですよ。乞うご期待。



6月3日日 ほっとして、恒例の野球見物へ。ヤンキー・スタジアムで周りから「イチロー、イチロー!」と呼びかけられる。これは嬉しい。「お前ら、おれのこと尊敬しているのね、よしよし」という虎威狐的態度にすぐなる。新庄もラジオのトーク番組で大きな話題になっていた。ところで、ジャズと野球について最近知った事実は、1959年米国議会のコンロン委員会が、占領国ではなくなった日本への文化政策として、野球と軽音楽を送り込むことを決議したというもの。凄いことやるなあ。これで日本は米国音楽と野球の国になったのか。でもおれはその年にはもう両方に浸っていたから、洗脳作戦の犠牲者ではないよ。言われなくても自分でやってたの!


6月7日 国立駅前の「国立楽器音楽の森」で、堀越彰 (ds)のグループ「東方異聞」を紹介。この場所で年に四回のコンサートプロデュースをしている。首藤久美子 (琵琶)、竹井誠 (尺八)、吉野弘志 (b)という興味深い編成。オリエンタルを追及する堀越オリジナル曲やおれの曲を何曲か共演した。楽屋で吉野弘志の「人類皆フェロモン教徒」説を慎んで拝聴。


6月9日 洗足学園大学前田ホール。洗足ジャズコース毎年恒例のイベント「Do JazzSenzoku」。
今年は、向井滋春 (tb)、渡辺香津美 (g)、おれ、の客員教授三人組をメインに、卒業生バンド・中江裕気 (ts)、片倉由美子 (p)、三浦徹 (b)、立山秋航(ds)。山下洋輔Solo to Trio・山下洋輔 (p)、岡田治郎 (b)、高橋信之介 (ds)。向井滋春スーパー4ブラス・向井滋春 (tb)、原朋直 (tp)、ボブ・ザング (as)、佐藤達哉 (ts)、今泉正明 (p)、納浩一 (b)、江藤良人 (ds)。渡辺香津美インフィニット・ストリングス・渡辺香津美 (g)、松原勝也 (vn)、鈴木理恵子 (vn)、柳瀬省太(va)、菊地知也 (vc)、吉野弘志 (b)、八尋知洋 (perc)。山下洋輔=向井滋春=渡辺香津美セッション・山下洋輔 (p)、向井滋春 (tb)、渡辺香津美 (g)、吉野弘志(b)、八尋知洋 (perc)。という陣容。
し前に出た「笑っていいとも」でポスターが貼れたこともあって、前売り好調だったが、学校関係者の招待枠や応募の高校生は無料などの作戦があり、すでに本番1週間前に満席が予想されて、一般への販売を打ち切った。贅沢かつ申し訳なかったが、学校内の掟は外の世界の掟と様々に違う。



6月15日−25日 京都大学を皮切りに、岩原ピットイン、北海道の恵庭市民会館、札幌ルーテル・ホール、岩見沢イマジン・ホール、阿寒町公民館、根室総合文化会館、釧路「ジスイズ」と駆け回った。11日間で8回のソロ・コンサートで、始まる前は死ぬかと思ったが、これが何とかなるからオソロシイよね。最後の釧路は極狭空間に客はぎゅうづめで、店主の小林東さんのパーソナリティと相まって、60年代新宿が甦った。


6月26日 同じ釧路の古い友人、榎本隆さんの還暦を口実に、ジャズ愛好者仲間が集まってドンチャン騒ぎ。明田川荘司 (p)、小山彰太 (ds)、梅津和時 (as)もお祝いに駆けつける。始まる前に控室で囲碁大会。酒宴はやがて、このメンバーでのプチ・ジャズフェス状態となっていった。


「CDジャーナル」2001年9月号掲載
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